定在波
 部屋の伝送特性の話を行う前に少し定在波の説明をします。長くオーディオをやってきた方々にはすでにご存じの事だと思いますが、おさらいをかねてもう一度読んでいただければと思います。

 音波は一定の速度で進む進行波で空気中を波が伝わる速度は、温度、気圧、などの条件で多少の変化がありますが、1秒間に約340mとなっています。
 しかし、一定条件の中では、あたかも波の進行が止まり、振幅が同じ場所で繰り返されているように観測できる現象があり、これを指して定在波と呼んでいます。

 定在波の一番単純な例は、入力波と反射波が干渉しあって、本来進行波である音波がそこに定在して振幅しているように観測できます。Fig.2-2Aにその様子を示します。通常この手のグラフは静止図をいくつか書き連ねて説明されていましたが、今回はブラウザで見ていただけると言うことと、実際に波の動きを動画で見ていただく方が理解しやすいということで、少々表示に時間がかかるかもしれませんが、GIFアニメを利用することにしました。

定在波動画グラフ
定在波の発生する様子
Fig.2-2A

 上側のグラフの青い線が入力波赤い線が反射波を表しています。波の進行は青が右から左、赤が右から左と音速に従って常に進行しています。
 下側のグラフは上のグラフに現れる二つの波を合成したもので、こういった入力波と反射波の間には周波数にかかわらず、このような定在波が観測できます。

 波自体は上側のグラフのように波が音速で移動していきますが、下側のグラフでは常に同じところで振幅を繰り返しているだけになります。注目すべき点はこの二つの波の合成で下側のグラフの振幅は最大で元の波の倍になっていること、最小部では、振幅が無くなっている(それも2カ所で)ことです。このことは、今後説明が進む基準モードの説明で重要になってくるところですので、この現象をしっかりと理解しておいていただきたいと思います。

 「周波数にかかわらず」と言う点にはもう少し説明が必要かもしれません。今まで多くの記事などで定在波は平行壁の間に発生する現象と説明されてきた例があったために、定在波現象に対し間違った解釈をしてしまうケースが少なくないからです。しかも、その発生周波数は壁の距離と波長の関係で起こっていたというような記述も見受けられました。しかし、実際は入力波と反射波、つまり音源が一つ、壁が一つで定在波は発生します。
 Fig.2-2Aのグラフには右側に壁があるように見えますが、このグラフの表すところは右側には音源だけがあり、右側からの反射音は加えられていません。(加えた状況は後述します)。

 それでは平行壁が存在し、そこから反射があっても定在波は成り立つのかという疑問が浮かんできます。壁の距離と波長に相関がないということは、2回目以降の反射波の位相がずれて到達することになりますが、この関係をFig.2-2Bに示します。

定在波(位相遅れあり)動画グラフ
位相遅れの波を足した場合
Fig.2-2B

 このように位相のずれた波を加えても定在状態に変化はありません(ただし位相のずれ方によって振幅の大きさに変化が現れます)。この原理の説明は比較的簡単で、直接波にも2回目以降の反射波にも、左側の反射壁でその反射波が発生しますから、おのおのの入力波、反射の関係は周波数が同じであれば、常に同じ定在状態を示すので、その観測できる合成波は、やはり定在状態を示すことになります。

特殊な定在波

 二つの壁の距離と波長に相関がない場合を上記に示しましたが、この場合、反射を繰りかえすたびに位相がずれていきますから、定在波の振幅は常に一定ではないという事になります。
 それでは、壁の距離と波長に相関性があった場合はどうなるでしょう。

 Fig.2-2Aのグラフにもどり、右の縦線が反射壁があるものとして考えてみましょう。このグラフの通りであるとすると、周波数の1波長と壁の距離は等しくなります。グラフには入力波である青い線が見えますが、2回目の反射があった場合は、この青い線は2重にかさなり、その反射を受けることになる左の反射壁では、反射波である赤い線が、2重に重なります。従って、2回目以降の反射が加わると、その合成波である下側のグラフの振幅はおよそ2倍になり、3回目では、約3倍になります。もちろん反射を繰り返すたびに、壁の音響インピーダンス(反射率)の影響と距離による音圧の減衰が発生しますので、正確に2倍、3倍になることはありませんが、それでもかなり大きな音圧を生み出し、共振ととらえられる現象が観測できるようになります。

 こういった関係になる定在波の周波数は、壁の距離を半波長とする周波数ならびにその整数倍の周波数です。たとえば、このグラフの左右壁の距離が3.4mであったとすると、描かれた波はちょうど1波長にあたり周波数は100Hzになります。そして発生した定在波の音圧は、壁の近くと部屋の中央で音圧が最大、逆に左から1/4、3/4の位置では理論上音圧はゼロになります。つまり、壁の近くでこの音を聴くと、音圧は大きく感じ、音圧がゼロになるポイントでは原理上音は聴こえなくなるのです。

 3.4mという距離は日本式に言えば、6畳間の長辺にあたり、その距離を半波長とする周波数は50Hz、そしてグラフのように1波長になるのは100Hzです。この事実は一般的な家庭でのオーディオ再生にこういった特殊な定在波が、特に低域伝送特性で影響を与えていることになりますが、この特殊な定在波を部屋における基準振動モードと呼んでいます。この部屋の伝送周波数特性に影響を与える基準振動モードについて、次回から解説することにします。

*****  HOTEI  *****
Oct.232000
Aug.20.2003改訂

 

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