低域伝送特性編:部屋の伝送特性
 部屋の設計をする場合は、低域伝送特性をよく理解し、十分に考慮しなければならないという話を、基礎編でもお伝えしました。ここでは、実際の計測なども交えて、その性質を説明する事にします。ただ、実例や説明のために、比較的多くのグラフィックを必要とするため、ページ表示が少し遅くなるかもしれませんが、その点ご了承いただきたいと思います。

実際の部屋を計測

実際の部屋での計測例

 Fig.2-1Aは、私(HOTEI)の部屋で、TechincsSB-M1というスピーカを使って、リスニングポイントから計測した、システムの周波数特性です。緑色の線がRチャンネル紫色の線がLチャンネルを表しています。使った信号は純音の周波数スィープです。こういった場合通常周波数特性の傾向をつかむために、ワープルトーンを使って計測することが多いのですが、部屋の周波数特性のピークとディップの原因を調べる場合は、純音スィープを使う方が良く解ります。

 さて、このグラフを見るとデコボコが多いのに気がつきます。ただ、200Hz以上にも多くのデコボコがありますが、それ以下の帯域で、ぐっと広く音圧が下がっている部分が有ります。特に40Hzから80Hzまでは大きな谷ができてしまっています。これだけを見るとSB-M1は低域の出ないスピーカなのかと思ってしまいますが、Fig.2-1Bにその無響室周波数特性を示します。

SB-M1無響室周波数特性

 これを見る限り、100Hz以下の特性が極端に悪くなる理由が見あたりません。逆に現在の最新スピーカと比較しても、遜色のないデータであることが解ります。

 では、このときの状態を聴感で確かめると、さぞ低域の量感が少なく聞こえるのではないかと思われるかもしれませんが、実際はその逆で、低域の量感は比較的たっぷりとしています。これは、楽音で低域のブーミング感を感じる100Hz〜200Hzの間のレベルが充分に確保されているために、量感自体は非常にたっぷりと聴こえるからでしょう。しかし、その低音はどこかすっきりとせず、解像度が低く低域の音程感もいまひとつはっきりとはしません。またピアノ演奏などを聴くと録音ではフルコンサートグランドを使っているはずなのに、アップライトピアノのようにこぢんまりとした表現に聴こえます。当時、実際石井さん宅のSB-M1と拙宅のSB-M1ではこういった違いが顕著に現れていました。

 「当時」と書きましたので、何のことかと思われるかもしれませんが、「現在」ではそういった問題はかなり大幅に解消されています。もちろん、別の部屋にシステムを移したり、部屋の改造を行ったわけではありません。石井さんの研究によって明らかになった、低域伝送特性のメカニズムに従って、スピーカの置き場所を変更したおかげで、それまでの問題がかなり大きく改善されたということなのです。実際の計測にもそれははっきりと現れています。

 さて、無響室での特性と実際の部屋での特性はどうしてこれだけ違うのか?、大きなデコボコ、つまりピークとディップはどのようにして起こるのか?、その合理的説明は?、と考えると、今まではほとんど解りませんでした。特に低域ではこういった現象が聴感に及ぼす影響は大きく、石井さんがこのような現象について研究するまでは、ほとんど取り上げられなかった分野だったのです。

 低域伝送特性のメカニズムを理解するということは、新規にリスニングルームを作る場合はもちろん、既存の部屋でどのようにスピーカを設置するかなどの問題の多くを解き明かすことが可能になります。次のページからはそれらの現象を出来るだけわかりやすく、順を追って説明する事にします。

*****  HOTEI  *****
Oct.8.2000
Aug.20.2003改訂

 

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