部屋の形状(3)
鏡像から見る部屋の形状

 さて、前項までには標準的だと思われる四角い平行壁を持った部屋をモデルに説明を行ってきました。しかし、リスニングルームやホールなどでは、フラッター (コラム参照) の影響などをさけるために壁の平行崩すという手法が以前から有りました。
 そこで、鏡像法を用いて、壁の平行を崩した場合の反射の様子を考えてみます。

後方が広い場合の反射の様子

 Fig.1-5Aは、リスニングポイントから見て左右壁のリスナー側を広くした例です。ここではおのおのの音像がリスナーから左右に遠ざかる方向に反射音像が現れる様子がよく分かります。しかもスピーカの指向軸は、リスナーの方向から大きく外れる方向に角度を開いていきますので、そのスピーカの指向特性に従った、音像が展開されるという事になり、この場合通常のスピーカであれば、指向特性による高域方向の減衰が、壁の音響特性に加わるという傾向が考えられます。
 また、この図は天井と床の関係としてもとらえることができますので、リスニングポジションから前の天井が下がっている場合は、音像が遠くに展開する傾向をみる事ができます。

前方が広い場合の反射の様子

 次に、Fig1-5Bの図はリスナーから見てスピーカ側が広くなった部屋の反射を表しています。この場合の音像はリスナーを取り囲むように展開し、その結果、リスナーから見た角度が左右に大きく広がります。また、スピーカの指向軸も広がる方向に進まず、ある程度までの角度を保っていますので、指向特性の影響は前者に比べて少な目であるともいえます。

 これらの事から壁の角度をどのようにするかを検討するなら、左右、上下の広がり、反射音の豊かさから、リスニングポイントから前方が広く、天井は後方に向かって下がる方式が音楽再生には適していることが解ります。

 それでは、通常あるホールなどとは逆の方向に展開していると感じられるかもしれませんが、元々ホールは通常の部屋より大きいのが当たり前ですから、ことさらそれより広い音場を追求する必要はありませんし、残響時間の長いホールで多くの反射音像が存在すれば、相対的に直接音のレベルが低くなり、楽音の明瞭度などにも影響を与えるでしょう。つまり部屋のサイズの違いや、2チャンネルで再生を行うオーディオの特質的な物がこの違いを生み出していると考えられます。

壁の角度

 さて次に、この角度について考えなければなりませんが、現実的には大きな角度を取るのは、そうとうに大きな部屋でないと床面積確保に与える影響が大きく難しいといえます。また、フラッタなどの影響から逃げるための壁の角度はせいぜい5度ほどあれば十分であり、そういった現実的な視点に立った条件の中で、角度を検討することが重要となります。

 なお、こういった角度の検証をより直感的に行う方法が有ります。用意するものは、アクリルなどでできた鏡(ガラスに比べて加工がしやすい)、スピーカに見立てた小さな箱(マッチ箱のような物で実験できますが、前後が判別しやすい物の方が良いでしょう)。
 鏡を部屋の壁に見立てて4面、5面分の壁を作り、そこにスピーカに見立てた箱を置きます。こうして壁の角度を変えながら、鏡像がどのように展開するのかじっくりと確かめます。このとき吸音部を配置しようと思う部分に黒い紙などでマスキングを行うとその部分の反射が無くなりますから、その影響をあらかじめ確かめておくことができます。

 また今後の説明の中で、部屋の1/10モデルの話をしますが、このスケールモデルの中でも、反射壁を鏡で作り、どういった配置を行うのが良いかなどの検討に使っています。
 下の写真は、鏡像法の写真です。写真では少しわかりにくいですが、肉眼で行うと立体視できますので、鏡像のでき具合が非常によく分かります。


Photo1-5C


Photo1-5D

*****  HOTEI  *****
Oct.1.2000

 

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