移動後の試聴および調整
聴感上でも良好になった

 HOTEIの部屋を検討材料に、模型実験、実際のスピーカ移動で特性上大変良好な結果をご覧いただきましたが、これが聴感ではどのように感じられたのかをこの章のまとめとしてご報告します。

スピーカ移動後の部屋の配置
セッティング変更後
Fig.6-A

 移動後のセッティングはほぼFig.6-Aの通りです。スピーカ見開き角度はおおよそ60度に広がりました。今までのセッティングから考えるとかなりスピーカは左右に広がった感じです。また、リスニングポイントはかなり後ろの壁に近くなっています。通常に考えると、リスニングポイント背後の反射が気になりそうですが、それに関しては全く問題を感じることはありませんでした。

 まず懸案の低域の聞こえ方は、伝送周波数特性にも現れているとおり、大幅な改善が見られ、アップライトのように聞こえていたピアノは、かなりコンサートグランドに近い雰囲気を得られるようになりました。スピーカの間隔を広げると中抜け現象を心配されるかもしれませんが、低域がちゃんと聞こえる位置にスピーカを持っていたおかげでしょうか、全くそのようなことはなく、かえって解像度が増したことで音像の現れ方はバックの楽器群と明確な描き分けを感じられるまでになっています。

 このように解像度が大幅に改善されたことは、低域伝送特性がしっかりとしたことと関連があると思われますが、各帯域がまんべんなく聞こえることで、低域の明瞭度も確実に向上しています。

計算で出るのは基本位置

 模型実験で出せるスピーカ位置は、もちろん基本位置であり、低域伝送特性上好ましい位置という算出方法ですから、厳密に使い手の好みを反映したものではありません。移動当初は確かにその改善に驚きましたが、それはクォリティの向上をもたらしてくれただけです。つまり、あくまでセッティングの基本を示しただけで、使い手の思いを反映したものへ、さらなる微調整を行う必要があります。いかに良い方法といえども、使い手の意志をすべて計算で算出できる保証はありません。

 移動に際してスピーカの指向軸は基本のリスニングポイントに向くようにセットしましたが、これではボーカルなどがかなり前に位置しますので、少し内振りを強くしたり、各パートの音像が、うまくブレンドするように、そのコントラストの付け方を微調整した結果、さらに好ましい条件を引き出すことが出来ました。これが、3週間後の計測グラフ(前ページのFig.3-5CとFig.35-D)です。

 この後さらに様々なソースの整合性や音楽の表情、歌手のわずかな感情の動きなどが、私なりに良くつかめる位置を探していきました。ここまでくると、スピーカをわずかでも動かすと、その表情が激変しますし、また、動かした後落ち着くまで1日置かなくてはいけないなど、非常にクリティカルで気の長い調整になります。

 こういったクリティカルな状況は、アンプやプレーヤのセッティングの微妙な調整にもことごとく反応しますので、全体を見渡した総合的な判断が要求されることになります。スピーカがここまで微妙な音楽信号に反応しないようでは、微細な神経の動きや、ふとした表現の違いを表すことはできません。アンプ、プレーヤ、ケーブルなどのセッティングはある程度スピーカ位置が決まらないと、その有効な差を聞き取ることはできないでしょうし、逆に進むと自身の思いとは違う方向に進んでしまう危険性もはらんでいるかもしれません。結果自分自身で満足のいく表現を得られたと思えたのは、移動後7ヶ月という時間をかけてしまいましたが、その甲斐があって以前と違った新しい次元で音楽に接することができるようになりました。

 低域伝送特性に基づく位置設定は既存の部屋でも(しかも私の部屋のように問題の多い部屋でも)かなり高度な音楽再生を望むことができます。また、多くの経験を元にすると、縦横どちらかに長い部屋では、長辺側にスピーカをセットする方が、低域伝送、スピーカ見開き角度に対して、大変有利に働くことが分かってきました。
 私の部屋では、荷物が多かったこと、スピーカがそれなりに大型であったことなどから、長辺側のセッティングの良さをある程度気づいていながら、なかなか踏み切ることができませんでしたが、石井さんによる実験、計測の結果を受けて、ようやく移動に踏み切ることが出来ました。今となっては、なぜ早くこうしなかったかと思うほどです。
 なお、この移動に際して、部屋の改造などは一切行っておらず、費やしたのは移動と、その後のセッティングを行う労力と、時間だけだったことを最後にお伝えしてこの章を締めくくりたいと思います。

*****  HOTEI  *****
May.6.2001

 

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