セッティングポイント
 本ページで解説しているスピーカーとリスニングポイントの推薦位置は、基準モードを考慮した理想寸法を発見する以前の内容となっています。理想寸法比を実現した部屋やそれに近い寸法比の部屋(例えば一般的な6畳間など)では、定在波の影響があってもまったく問題のない伝送特性を得ることが可能となったため、部屋に対してシンメトリ配置となるセッティングを行っています。したがって、理想寸法にくらべ天井高が低いなどさまざまな問題がある場合に適用できるテクニックとご理解ください。

スピーカとリスニングポジションの設定

 前回までで低域伝送特性は、部屋の基準振動モードによって出来る節面に影響を受けていることが分かりました。部屋の中央部や、その寸法の4分の1に当たる場所は特に低次での節面が多く通ることが理解できたと思います。

 これまでスピーカ位置と部屋の関係は、使い勝手などの特殊な事情が無い限り、部屋の中央からシンメトリに置くと言うことが一般的に行われていました。もちろん、視覚による収まりもよく、スピーカセッティングは壁との距離によって音色が変化すると説明されていたのですから、シンメトリに置きたくなるのは人情としても、なんとなく納得のいくものであったように思います。

 しかし、基準モードの検証を行うことによって、部屋の中央ライン上にリスニングポジションがくる、シンメトリ配置は低域伝送特性上決して好ましくないという事実が判明しました。従って、節面の存在を考慮したスピーカの設置場所を検討する必要があります。

 ステレオ再生の基本は、2つのスピーカ、リスニングポジションが正三角形の関係になることが基準とされています。さらにスピーカとの距離などを考慮して出来る限り大きな三角形を考えるとFig.2-10Aのようなポジショニングが考えられます。図の左側にスピーカ、中央やや右寄りにリスニングポイントを置くこの配置がもっとも大きな三角形を描くことができます。図の赤い部分は節面がもっとも多く通るエリアを表しています。

部屋の縦使いセッティングの例
節面の存在を考慮した部屋の縦使いセッティング
Fig.2-10A

 しかし、この縦置き配置は部屋のサイズを有効に活かしていません。また、この図が6畳間程度の広さなら、スピーカとリスニングポイントの距離も大きくはとりにくく、その後ろのL8より後ろに下がる手法も考えられますが、そうするとあまりにスピーカの見開き角度が狭くなってしまいます。特に縦に長細くなる12畳部屋などのパターンに当てはめると、正三角形に配置することの難しさがより大きくなってきます。現実的には12畳で縦置きを用いると伝送特性が非常に悪くなるため、以下のように横置きにするしか低域の改善は不可能であることが判明しています。

 そこで、部屋を横使いにすると部屋を広く使うことができます。

部屋の横使いセッティングの例
節面の存在を考慮した部屋の横使いセッティング
Fig.2-10B

 このように横使いをすると、描く三角形の広さは大きくなり、部屋の寸法を有効利用できます。実際に同じ部屋でこの2種類のセッティングを試した例をいくつか実際に聴きましたが、ほとんどすべての面で横使いセッティングが再生クォリティでの大きな向上を認めることが出来ました。また、スピーカー間の幅を大きく取れるこの配置では、低域の改善に加え、解像度の向上が感じられる点も大きなメリットとして現れてきます。

 ただ、注意しておかなくてはいけないのが、これが低域伝送特性に準じた推薦セッティング位置であるということ、さらにこれらの図でもわかるようにセッティング範囲にはある程度幅があります。つまり節面があまり通らない場所はある程度の幅があり、その幅の中でセッティングを行えばよいと言う事を表しています。

 実際の経験では、この推薦位置で低域の問題は解消しますが、さらにこの範囲(付近)で、中高域の最適位置を探し出すという作業が必要になります。スピーカセッティングの最後は、ミリ単位の調整が必要になるという話を聞くことがありますが、実際にこの手法でもかなりの追い込みは必要になります。しかし、従来闇雲に聴感だけで最初から場所を探していたことを考えれば、低域伝送特性上有利な場所が計算により割り出せているということは、画期的なことであると言えるでしょう。

 さて、ここまでで基準モードの説明は一旦終わりとして、次回からは章を改めて、もう少し実際の部屋での説明を行う事にいたします。ただ、ここから先も低域伝送特性や基準モードについての話が多く出てきますので、今までの部分をよく理解した上でお読みいただければ、より理解が深くなると思います。

*****  HOTEI  *****
Dec.21.2000
Aug.20.2003改訂

 

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