基礎編:石井式の特徴 |
従来法の問題点 石井式以前にもオーディオ用の部屋としての音響設計方法が存在したことは前ページで述べました、これをここでは便宜的に従来法と呼びます。この従来法は、Fig.1-1Aのような三種類の構造で低音は薄い板を振動させ、中音は有孔ボードを使いヘルムホルツのレゾネータを形成して、高音は繊維質吸音材と、それぞれ別の方法で吸音を行い、トータルでちょうど良い残響特性を得ようとする物でした。いわば全体を3つの帯域に分けて吸音する3ウェイ吸音法と言うことが出来ます。
しかし、この吸音法には問題が有ります。Fig.1-1Bのように低音用吸音壁で反射した音は低音が無く、中音用では中音が、高音用では高音が無しというように、反射波はそれぞれフィルターを通したような形になり、さらにそういった低音、中音、高音それぞれがかけた状態で時間差、方向差を持ってリスナーに到達します。しかも板を振動させて吸音させている低域吸音壁では、中高音はそのまま反射されますので、その板の振動によって変調される事になり、ある種歪んだ音になってしまいます。 この従来法による設計は帯域ごとに壁の面積を計算し、その吸音構造をどのように配置するかを入念に検討する必要が有ります。特に低域では薄い板を共振させてねらった帯域を吸音するために、そのサイズに融通が利きませんし、中域の有孔ボードもその背後の空気との共振で吸音していますので、そのサイズはどうしても限定されてしまいます。 そういった制約の中で、吸音面積を計算するのですから、その結果として計算量は膨大で時間がかかり、そして何より問題であったのは、最終計測で理論値通りの残響特性が得られたとしても、響きの良い部屋ができあがるとは限らない点に有ります。これは、過去石井さんが設計した従来法の試聴室で検証し、比較的良い結果が出たときもあれば、良くない結果になった場合も多く、設計に要する時間のわりには完成までその結果がつかめないという欠点がありました。それを石井さんが疑問に思い、現在の石井式を考案する原動力になったという経緯があります。
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石井式の場合
さらに反射と吸音という二つだけの要素から成り立つこの部屋の設計は非常に容易で部屋の通常6面ある内面積の合計に対して吸音壁面積の比率を計算することで、平均吸音率を算出することが可能であり、後はその吸音壁の分散配置だけを工夫すれば良いという事になります。 反射壁は単純に低域までしっかり反射できる強度のある壁であれば良いのですが、その表面材質によって反射音の質が関係してきますので、表面材は天然木質系にするのが良いという結果が出ています。 さらに研究の進んだ現在(2003年)では、この吸音層の厚みは15畳程度までの広さなら10cm程度の厚みで十分にその性能が得られることが、模型実験ならびに実際に完成した部屋での検証で明らかになっています。 まずはここまでが石井式の基本となりますが、このほかにおさえて置かなければならない項目がいくつか有り、吸音壁の配置方法や、低域のコントロールは十分に配慮する必要があります。この低域の伝送特性は吸音壁の配置だけでは十分ではなく、部屋の寸法比や、あらかじめスピーカの位置とリスニングポイントを想定した計画が必要になることが現在分かっています。 ***** HOTEI ***** |