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ビンテージスピーカーから学んだこと |
| 先日完成した石井式リスニングルームで、お部屋の完成確認とシステム調整をさせていただきました。お部屋の完成を機に導入されたALTEC Valenciaの音にとても感銘を受けるという出来事があり、今回はその様子と我が家でのその後についてお話しさせていただきます。
新しいリスニングルームでのシステム調整 今回完成したお部屋は変形の約10畳で天井高を確保するため、床下げを行ないました。ご新居の完成に合わせオーナー様のご親戚から譲り受けられたというALTEC 846A Valenciaは、8Ω仕様でしたので、1970年以降の後期モデルと思われますす。ご親戚宅でしばらく使われていなかったということでしたが、傷ひとつない非常に綺麗な筐体で、とても大事に扱われていたことが想像できます。このお部屋には旧宅で使用されていたJBL L100と合わせて、2組のスピーカーでの運用となります。1950年代から現代までのジャズを中心に楽しまれているオーナー様のお好みに合わせて相談させていただいた結果、Valenciaをオーソドックスな音像型セッティング、L100を現代のソースに合わせて音場が広がるセッティングに振っていくことになりました。駆動アンプは TRIODE TRZ-300Wでスピーカーを切り替えながらの使用となります。 まずは音を出しながらValenciaの大まかな位置を出し、L100の設置位置との整合性を図ります。その結果Valenciaはより低音再生が発揮できるコーナー寄り、L100をValenciaの内側として帯域バランスをとるようにしました。音像型再生のValenciaは内振りを少なめに、音場型に寄せたL100は少し内振りを強めにしています。全体のバランスを確認いただいた後、さらにスイートスポット調整を行ないセッティングを詰めていきましたが、オーナー様の想像を超える音楽再生とのご評価をいただき、大変お喜びいただけました。
Valenciaの調整で感じたもの 調整作業はできる限りオーナー様のお好みに沿わせるため、作業の途中で聴いていただく時間をできるだけ多くとります。もちろん私も試聴の邪魔にならない位置で聴かせていただいていますが、Valenciaの調整過程で流れる音楽に心を奪われる瞬間が少なからずありました。たしかにストリングスの倍音が高域まで伸びていない、アンビエント表現が広がりにくいなど、明らかに現代的なモデルの印象とは異なりますが、音楽を聴くうえで一番大切な部分をより深く表現しているように感じました。 再生帯域に限界があるため情報量が分散することなく、聴き手を引き寄せるのでより音楽表現に深みを感じるのでしょうか。いや、帯域だけの問題ならValenciaだけではなく、その当時多く存在した多くのスピーカーも銘機として語り継がれているでしょう。しかし、銘機と評価されるスピーカーがそれほど多いわけではなく、そう評価されるには人の心を惹きつける「なにか」があるのかもしれません。今回Valenciaを聴いて思うところがあり、少し前に完成した石井式リスニングルームでJBL Olympusをお使いのオーナー様にお願いして、じっくりと聴かせていただく機会を得ました。Valenciaとは性格が異なりますが、音楽の表現力にはどこか相通じるものがあります。その表現力の正体は分かりませんが、そこで感じた空気感や感触は多くの気づきを与えてくれたような気がします。
SB-M1のセッティングを試してみる 今回の体験は、これまでの我が家のシステムセッティングで至らない点があることに気づきを与えてくれたかもしれません。気持ちの良い音、部屋全体に広がる音場感に調整の中心が偏り、肝心の音楽が伝えてくる表情や情景描写などが希薄になっていた点です。我が家のTschinics SB-M1は古いモデルですが、広帯域再生といった点では近年のスピーカーに通じるものがあります。もちろんこれをValenciaやOlympusのようなバランスで鳴らすことを目指すわけではありません。しかし、今回の経験を活かし、もっと音楽の大切ない部分を表現することを意識したセッティングに挑戦する意味はありそうです。 我が家のSB-M1のセッティングは、低域を少し持ち上げていますが、中低域以上はフラットに感じられるようセッティングしています。ただ、解像度や高域の伸びを意識するあまり、中低域の豊かさに欠ける部分がありそうです。そこで、中低域をもう少し豊かに感じられるようにバランスを調整する方向で調整してみることにしました。いくつかの音源を利用して、スピーカーの周りでバランスを確認し、狙った帯域の量感が増す方向でスピーカーを動かしていきます。左右のスピーカーを動かしては確認という作業を数回行ない、かなり良い感触の場所が見つかりました。音楽の表現に意識を集中したことで、判断基準はシンプルになります。最後にスイートスポット調整を行ない、最終的な確認作業を行ないます。
調整に用いた音源以外にも、いろいろなソースをランダムに聴いていきましたが、これまで感じていた以上に、表現の幅が増したこと、ボーカルものでは歌い方の細やかな感情表現が伝わってきます。また、普段聴いているインスト系の音源も細かいニュアンスや、グルーブ感の良さも感じ取れるようになりました。ただ、全体的に少しゆるく、調整前まで感じていたスリリングな展開が少し薄まった印象です。今までならこれを解消するためスピーカー位置を少し戻して修正していたと思いますが、それだと単純に元に戻るだけで終わりかねません、そこで現状をさらに前に進めるため、スピーカーを動かす以外の手法としてアンプの設置位置の調整を試してみました。まずはパワーアンプから作業しましたが、意外にもこの作業だけで良い感触が得られました。最初1センチ壁に近づけると音が締まりすぎ、少しずつ戻していった結果、元の位置からおよそ4ミリほどの移動量になりました。 調整を行って 今回は石井式リスニングルームの完成時の調整でValenciaを聴き、さらに同じく石井式オーナーのお宅でOlympusを聴かせていただいたという経験に触発され、自宅システムのチューニングを行ないました。音楽表現を意識しながら調整しているという意識はあったものの、解像度や気持ちの良い音、音場や空間表現といった個々のパラメーターにとらわれるあまり、音楽表現への意識が希薄になっていたことに気づく良い経験になりました。システム調整はこれで終わりではありませんが、しばらくは現状で聴き続けてみようと思います。今回の貴重な経験をさせていただいたお二方、さらに石井式リスニングルーム設計をさせていただいたみなさまに心より感謝いたします。 |
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*本稿でご不明な点、ご質問などございましたら「こちら」までご連絡ください。 スピーカー位置の検討についてのご質問では、お部屋の写真を添付いただけると、イメージがつかめます。その際は正面、後方、左右、天井方向の写真とごく簡単で結構ですので、お部屋の縦横高さの寸法をお送りいただけましたら助かります。 |