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アナログとデジタル

 アナログとデジタルどちらの音が良いかといった論争はもう下火になっていたように思いますが、最近になってSNSやYoutubeでこの話題について取り上げているのを散見するようになりました。それらを見ているとデジタルの方が音が良いとするデジタル派、アナログこそ音が良いとするアナログ派に分かれて、それぞれがその良さをアピールしています。アナログ、デジタルどちらでも楽しんでいる私の場合、デジタルが登場した当時は音の違いを意識してましたが、最近は方式の違いを考えることもほとんどなくなっていました。SNSの話題にちょっとのってみて、久々に考察してみることにしました。

スペックはデジタルの方が有利

 スペックで考えてみると、ハイレゾソースが手に入るようになった現在、たしかにスペック上デジタルの方が記録方式としては性能が上というのは間違いないと思います。CDの44.1kHz/16bitは音楽の記録メディアとしてはぎりぎりと思いますし、確かにCDフォーマット独特の癖を感じるソースもあります。ただ、SACDやハイレゾの登場でおわゆるCDっぽさを感じることはなくなりました。

 一方アナログレコードは音を刻んだ溝を針がなぞることで電気信号に変換するため、どうしてもトレーシングノイズは出てしまい、計測でノイズフロアを測るとSNはデジタルにかないません。ただ、このノイズは無音溝ではわかるものの、音楽が鳴っている部分では、ほとんど気にならないレベルとなります。CDが登場してしばらくはデジタル技術の進化に伴いその音質は非常に良くなりました。ただ、その陰でアナログも確実に進化していたことも事実で、あるところでアナログレコードの音って、いつの間にこんなに良くなったの?と思える経験をしました。その進化に合わせ、レコードプレーヤーの再検討なども必要になり、多少お金がかかったことも事実ですが、デジタルと併用していても決して聴き劣りしないメディアに成長したように感じます。

ソースの問題

 デジタルとアナログの優劣を主張する論点で、私が気になるのはソースのお話がほとんどで出てこないことです。前述の通りスペックだけで観ればデジタル有利は間違いありません。しかし、それは器の問題で、そこにどんな音楽がどんな状態で収録されているかの観点が語られることが少ないように感じています。

 パット・メセニー・グループの「Offramp」というファンの間では人気のアルバムがあります。私は1982年の発売当初に手に入れました。1982年といえばその秋に最初のCDプレーヤーが発売された年です。したがって発売当初はレコードしか存在しません。CDはずいぶん後に発売されたような記憶があります。すでにレコードを持っていたので、CDはずいぶん後になって購入したと思います。

 さて、このレコードとCDを聴き比べてみると、確実にレコードの音が優れています。解像度、音場感などもそうですが、とにかく音楽が生き生きと鳴り、また空間表現も絶妙です。対してCDはもちろん、これ単体で聴けば申し分のない音質ですが、レコードを聴いたしまうと、どうしても比べてしまい、音楽表現の魅力はレコードに軍配があがります。


Pat Metheny Group 「Offramp」
写真のディスクを比べるとレコード方が音質が良い
発売時期の異なるディスクでは結果は異なる可能性がある

 この違いについてあくまで想像の域ですが、マスタリングの差だろうと予測できます。録音が1981年、発売が1982年ですから、マスターは磁気テープで間違いないでしょう。カッティングマスターもこのマスターテープから起こされますので、ここもアナログです。対して後発のCDは先のマスターテープ(アナログ)から、デジタルマスター、カッティングマスターという流れになると思います。

 オーディオを長くやっている方ならご存じだと思いますが、アナログの磁気テープは時間の経過で少しずつ劣化します。つまり後発のCD製作に用いたマスターテープは時間の経過とともに劣化が起こっていたと予測できます。もちろん、デジタルマスターを作る際にその劣化を補う処理が可能ですが、マスターに決定的な問題がない限りは、そのまま使用されてもおかしくはありません。この違いが後発メディアの音質の違いとして現れたのではないかと思います。そして、これはレコード、CDといったメディアの違いではなく、製造過程でのお話となります。

別の事例も

 もう一つの例はノラ・ジョーンズの「Come Away with Mw」です。このアルバムは2002年のリリースで、大ヒットを記録し2003年にグラミーを受賞したアルバムです。私がこのアルバムを購入したきっかけは、たまたまタワーレコードをぶらついていた時に、店内でこのアルバムがかかっていて、レジに行って「今演奏中のCDください」と言って買った記憶があります。日本盤発売前でリリース直後だったと思います。。

 グラミー受賞後、SACD盤とレコード盤が発売されましたので、それらも購入しましたが、聴き比べてみると最初に買ったCDが一番音が良かったのです。2002年ですから多くのスタジオはすでにデジタル化され、録音現場ではハイレゾ収録されていた可能性もあります。そこでディスク本体やジャケットを確認すると、最初に買ったCDはEU盤で、SACD、レコードはUSA盤でした。これはマスターは同じとしても、カッティングマスター製作で、EUとUSAの違いがあったと思われます。クラシックなどでEU盤の方が音が良いという話を聴いたことがありましたが、実際に同じタイトルでこれほどの違いがあるのは驚きでした。


Norah Jones 「Come Away with Me」
上段レコード、下段左CD・EU盤、右がSACD・USA盤
EU盤はディスクのタイトルプリントが青色、USA盤は黒と異なる

 したがってこのアルバムに関しては、アナログよりCDの方が音が良いという結果になり「Offramp」の例とは逆になります。なお、今回ハイレゾ配信については触れていませんが、この二つのタイトルはハイレゾ配信でも後発メディアの音に近く、同じような結果になりました。ここにもやはりマスタリングの違いが反映されているように思います。

 ちなみに、この他にも同一タイトルのデジタル、アナログメディアをいくつか持っていますが、同じ時期にリリースされたものが多く、私の環境ではいずれも甲乙つけがたい音質です。確かにCDの癖を感じるものもありますが、総合的な音質ということであれば、大きな違いを感じることはありません。もちろん、これはシステムのチューニングにもよるところがあると思います。私の場合CDで基本的なチューニングを行い、それをもとにアナログプレーヤーをチューニングします。これは圧倒的にアナログプレーヤーの調整パラメーターが多いので、思った方向に振ることがデジタルプレーヤーよりやりやすいためです。結果同じ人間が好みで調整していくと、まったく同じにはなりませんが単純な印象は、かなり似た音楽表現になってしまします。

ソースが違えば評価が入れ替わる

 ここまでのお話で、音の良いアナログレコードで聴き比べると、アナログ優位になりますし、逆もまたしかりです。このように音質を評価する時に、用いたソースで簡単にその結果が入れ替わる可能性があります。

 私たちが音楽を楽しむ際、普通に入手できるソースがすべてです。聴きたいアーティストの聴きたい曲、オーディオに取り組まれている人それぞれが、できるだけよい音で聴きたいというのはオーディオに取り組んでいる方々の願いだと思います。ただ、入手できるメディアには限界があり、たまたま音質の良いメディアが入手できればラッキーといった具合で、誰もが思い通りにというわけにはいきません。今手に入る音源、すでに持っている音源をいかに良い音で楽しめるかが一番大切なことではないでしょうか。

最後に

 オーディオ技術の発展を目指して、デジタル・アナログの分野で音質の向上を目指して日々研究を重ね、頑張っていらっしゃる方々に感謝と心からの応援を送ります。私たちがオーディオを、音楽を楽しめるのは、様々な分野でオーディオファンの楽しみを支えてくださる皆様のおかげであることを、最後に伝えたいと思います。

2025/2/6 HOTEI(松浦 正和)

 
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