HOTEI'S Note Index

石井式リスニングルーム(2)

理想寸法比は理想だけど、絶対ではない?

 前回の模型実験と計測させていただいた実際の部屋のデータから、部屋の寸法と伝送特性に相関関係があり、伝送特性グラフにピークディップが細かく、大きな谷が生じない状態が、良いバランスを保つうえで重要なことがわかりました。逆の視点で見れば、定在波モードをコントロールするには、部屋の各寸法を適切に設定すれば良い伝送特性が得られるかもしれないという予測をしました。
 そこで、部屋で発生する定在波モードを均等に並べていくため、理想的な定在波モードのパターンの計算を行ないました。

そこで得られた結果が理想寸法比「1(長辺):0.845(短辺):0.725(高)」です。

 この数値が導き出されたところで、次はこれが正しいかを検証する必要があります。そこで、当時私たちの研究に考察や知見でご協力いただいていた方々が、定在波モードの解析に役立つ、伝送特性のシミュレーションソフトを作成してくださいました(本サイトからもダウロードできるソフトは、当時のシミュレーションソフトの進化版です)。
 このシミュレーションソフトを用いて、理想寸法比及びその周辺のあらゆる部屋寸法で計算し、それぞれの伝送特性を見比べるという地道な作業を行いました。おそらく検証パターンは数百に及びます。その結果、理想寸法(近似値を含めて)に設定した部屋寸法であれば、確実に良い伝送特性が得られることが確認できました。

 この検証を得てようやく専門誌などで、この情報を発表した経緯があります。ただ、発表に際しては石井さんと発表した後の影響を考え、付帯情報をきちんと加えるなど、理想寸法比の扱いが絶対的にならないよう慎重に文章化する必要がありました。
 これは、上記の通り理想寸法比で部屋を作れば、良い伝送特性が得られることは証明できましたが、シミュレーションで行なった検証の段階で、それ以外の外れた寸法でも良い特性の部屋が存在することがわかったためです。実際に一般的な12畳サイズの部屋で長辺セッティングを行なった場合には、かなり良い伝送特性が得られます。この12畳の寸法とと理想寸法比では、かなりの隔たりがあります。

 前回の記事で書きましたように、石井さんが退職後にはじめられたのは、石井式リスニングルームを現実的な、一般住宅内に収めるようにすることでした。もし、すべてを理想寸法で設計した場合、長辺が5mの部屋なら天井高は3.625m、6mの部屋なら4.35mにもなります。条件が許されるなら良いですが、これをすべての方々のお部屋に適応させるには、やはり無理があります。逆に理想的な天井高を確保するために床面積を小さくするというのは本末転倒でしょう。またすでにある部屋をリフォームでといったケースでは、理想寸法比に合致させるのはそもそも不可能な話です。

 先述の一般的な12畳の部屋の例のように、理想寸法比でない組み合わせでも、良い伝送特性が存在するということで、理想寸法比は代表例だけど絶対ではないということに注意していただければと思います。実際に石井さんや私が設計した石井式で、理想寸法比で作られた部屋はごくわずかです。建築条件やコストなどを含め、そのケースごとにシミュレーションをk行ない、できるだけ良い伝送特性を提案するというのが、現実的な手法です。私自身の部屋を作る際も、事前にシミュレーションで寸法を決めましたので、天井は一般的な部屋よりは少し高めに設定していますが、理想寸法比の部屋ではありません。


石井式リスニングルーム設計例
シミュレーションで部屋の各寸法を検討している

部屋の形は直方体

 理想寸法比が縦横高さで示されているように、現在の石井式リスニングルームは基本的に直方体です。前回紹介した初期の石井式では壁に角度をつけたいわゆる波型の壁をしていましたが、いろいろと実験を進めるうえで単純な直方体の方が、きれいな残響を得るために有効であることが解ってきました。

 直方体の部屋は前後、左右に天井、床とたがいに向き合った3対の面で構成されまずが、平行に向き合った壁で反射される残響は、等間隔の時間軸で減衰するため、非常に自然で素直な減衰カーブが得られます。これは、昔のテープエコーや、現代のデジタルディレーマシンでも確認できますが、単純な等(時間)間隔ディレーの減衰音は非常に綺麗なエコーに聞こえます。長方形の部屋ではこの等間隔ディレーが3対重ね合わせた状態になります。波型の壁では相当緻密に計算しないと得られない、美しい減衰音が平行壁であれば、非常に簡単に作れるメリットから、現在石井式では直方体を基本的にお勧めしています。また、壁や天井に角度をつけない分、スペースファクターも有利になります。
 もちろん導入する建物により屋根の形状や、天井高の確保のため、全面あるいは一部傾斜天井になる場合もありますが、これも十分検討の上、リスクを最小限にとどめるよう工夫しています。

フラッターエコー

 平行壁が存在することで、フラッターエコーは気になるところです。直方体の石井式では確かにフラッターエコーは存在します。ただ、木質系の表面材を多用した場合、このフラッターエコーがほとんど気にならない音質になります。木質系の表面材はもともと美しい響きのために選んだものですが、これによりフラッターエコーもほとんど気にならない音質になるため、実質的に無視してよいレベルで、美しい響きの方が大きなメリットを感じることができます。なお、この木質系表面材を使うにあたって、良好な音質を確保するため、その木素材の検討、塗装の仕上げまで指定を行ないまず。

システムチューニングが重要

 石井式リスニングルームについて、非常に簡単ですが2回にわたっての紹介をさせていただきました。実際に設計させていただく場合には、この他にオーディオ専用電源設計や建築地や使用形態に併せた遮音構造の検討、配線ルートの確保やシアタールームに必要な構造、機能性の関するアイデアも多く検討、考案しています。また、施工の際には、壁構造の細かな指示事項や、設計段階や施工現場で様々に発生する、イレギュラーな事態に対して、そのつど理論と経験に基づいた判断を必要とする場面に遭遇します。これはどのようにして、石井式リスニングルームが考案されたのかを、実験段階から理解している必要があり、過去の経験とオーディオにどれだけ深く関わってきたかが問われる部分です。お部屋が出来上がった後は、システム調整のお手伝いをさせていただいています。オーディオは人それぞれのお好みがあり、そのお好みにできるだけ寄り添ったチューニングが重要です。部屋のポテンシャルを最大に活かし、音楽や映像作品を心行くまで楽しんでいただけるチューニングを行なうことが、リスニングルームやシアタールーム設計に際して、いちばん大切なポイントと考えます。

 石井式リスニングルームを正確に、また所定の性能を得るための様々な知見がありますので、設計ご希望の際は、ぜひご相談をお寄せください。お問い合わせ、ご連絡は、下記メールリンクから。

2024/3/4 HOTEI(松浦正和)

 
 *本稿でご不明な点、ご質問などございましたら「こちら」までご連絡ください。

 スピーカー位置の検討についてのご質問では、お部屋の写真を添付いただけると、イメージがつかめます。その際は正面、後方、左右、天井方向の写真とごく簡単で結構ですので、お部屋の縦横高さの寸法をお送りいただけましたら助かります。

HOTEI'S Note Index

<BACK