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石井式リスニングルーム(1)

 いままで手前みそ感があったため、石井式リスニングルームの紹介を後回しにしていましたが、いろいろなお勧めもあり、あらためて石井式リスニングルームについてお話していきたいと思います。もちろん、石式式はリスニングルームとして、現時点での最適解であると思いますし、ホームシアターやピアノルームとしても非常に高い評価をいただいております。本サイトのトップページなどでもご案内していますが、拙宅のリスニングルームはいつでもお越しいただけますので、ぜひご体験いただければ、そのポテンシャルの高さを実感していただけると思います。

部屋の響きを大事にした部屋

 石井式リスニングルームは、ほぼ完全な反射と、ほぼ完全な吸音の組み合わせでできています。そのユニークな吸音方式に注目があるまりがちですが、大事なのは反射壁の方です。美しい響きを作り出しているのは反射壁で、木質系表面材、少々の音圧でも振動しにくい強度、素直な反射音を作り出すための平面であること、などが特徴です。

 石井式の発想のもとになったのは、漆喰壁で作られた部屋でした。これは、故瀬川冬樹先生のお宅で石井さんが体験したもので、非常に美しい響きに圧倒されたそうです。ただし、全面漆喰壁でしたのでさすがに残響が長く、様々なジャンルの音楽を再生するには難しい部屋であったとのことです。

 その後石井さんはリスニングルームについて考察したときに思いついたのが、無響室の中に必要な量のしっかりとした壁を作れば、美しい響きと調和のとれた残響時間のコントロールができるのではないかと思いつき、これが石井式リスニングルームの原点となる発想となりました。

 無響室はグレードにもよりますが、吸音くさびは1m、その吸音くさびが四方および上下に配置されています。その中に反射壁を作るというのはいかにも荒唐無稽のアイデアです。そこで、反射壁と1mの深さを持つ吸音部の組み合わせで、テクニクス内の試聴室を作ったのが、最初期の石井式リスニングルームとなります。もちろん、リスニングルームの有効面積に比べ、かなり大きなデッドスペース必要となり、非常にスペースファクターの悪い部屋になりますが、それまでにない上質なオーディオ再生が可能な部屋であったそうです。

 その後、時代の経過とともにいくつかの改良ヴァージョンの試聴室を石井さんは作られました。そのたびにスペースファクターは改善されていますが、依然と壁は厚く一般住宅に採用するには、まだまだ解決しなければならない課題が残されていました。私も石井さんがテクニクス在籍時代最後の試聴室を体験しましたが、その時点で考えられる最高の試聴室であったことは間違いありません。あと現在とは異なり、壁、天井に角度が付いたいわゆる波型の壁となっており、さらに可変吸音のためのスライド壁が仕込まれていました。この試聴室は再出発したテクニクスの開発でも活躍していましたが、つい3年ほど前、事業部移転によりなくなったのが残念です。


石井さんTechinics在職時代に作った石井式リスニングルーム試聴室

一般住宅への応用

 1995年に石井さんはテクニクス(松下電器産業→現パナソニック)を退職され、個人でリスニングルーム研究に没頭されることになります。ちょうどそのころ私は石井さんと出会いがあり、石井さんのリスニングルーム研究が、非常に興味深く、自分自身の部屋にも役立てると、研究のお手伝いすることになりました。

 先述の通りその時点での石井式は吸音のためのスペースが大きく、一般住宅に持ち込むにはあまりに無理がありました。そこで吸音層の容量を可能な限り小さく、反射壁の強度を確保しながら、可能な限り薄くするという実験に取り組みます。吸音層のサイズダウンは同時に行なっていた定在波の解析実験から、解法が見つかり、まさに瓢箪から駒のような結果が得られました。反射壁については模型と共鳴管の実験で試行錯誤を重ね、最低限の厚みとそれを支える構造体の組み合わせを探り出しました。もちろん、この実験があったからこそ、実際のリスニングルーム建築で様々に発生する、イレギュラーな事態に応用可能な知見が得られたことはいうまでもありません。これは発行されている石井式の書籍にはあらわされていない部分もあり、私の貴重なデータとしてリスニングルーム設計や、システム調整活かしています。


音響実験用1/10模型
実際の部屋を完全に1/10サイズで再現して、実物と模型の測結果が
同じであれば、以後の実験を模型で再現可能になる

定在波の解析と応用

 一般住宅への適応と併せて研究を進めていたのが、定在波の解析です。スピーカーの開発では無響室での測定を行ないますが、この時の特性はかなりきれいなグラフが得られます。しかし、実際の部屋に持ち込むと、どうしてもデコボコとした測定結果になります。これは壁や天井からの反射が影響していますが、壁間の距離による定在波の存在により、一定のパターンをとることが知られています。

 定在波による伝送特性の乱れを何とかしたいという目標のもと、最初に考えたのが定在波をなくすことでした。ただ、これは石井さんといろいろと話して思考実験を重ねました。sかし、原理上かなり無理な手法であることは明白で、この手法はすぐに却下です。そこで、まずは定在波の振る舞いを徹底的に解析することで、解決の糸口を探ることになりました。この時にわかったことは、長方形の部屋では縦、横高さの3つの平衡面があり、それぞれに定在波モードがあり、さらに2対、3対での複合したモードが発生するなどの発見があり、この各モードの節面の位置と伝送特性の間に、相関があることが見えてきました。

 この時に定在波解析の手がかりとして同時に進めていたのは、オーディオを楽しんでおられるいろいろなお宅にお邪魔して、部屋を測定させていただく作業でした。部屋の寸法を記録し、部屋の各所で細かく伝送特性を計測させていただくという内容でした。これは部屋の寸法と伝送特性に相関があることから、実際の部屋ごとの特徴を解析する貴重なデータとなっています。そして、伝送特性のグラフに過度なデコボコがなく、また大きな谷のような(石井さんは日本海溝と呼んでいますが)へこみがないパターンでは、聴感でも良好なバランスが得られることがわかりました。
 この計測させていただいたお宅で、お礼にスピーカーの位置チューニングをさせていただきましたが、この貴重な経験が現在の私のチューニング法の土台になっているのは、間違いありません。

次回に続きます

2024/2/24 HOTEI(松浦正和)

 
 *本稿でご不明な点、ご質問などございましたら「こちら」までご連絡ください。

 スピーカー位置の検討についてのご質問では、お部屋の写真を添付いただけると、イメージがつかめます。その際は正面、後方、左右、天井方向の写真とごく簡単で結構ですので、お部屋の縦横高さの寸法をお送りいただけましたら助かります。

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