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AVアンプを使った音場再生

 
   今回はお使いの部屋の事情で、どうしてもうまく音場再生ができないという方や、普段ジャズ、ポップスの再生がメインで、スピーカーセッティングを音像型に寄せていて、クラシック再生時にもう少し音場表現が欲しいという場合に、活用できる手法についてお話ししたいと思います。なお、タイトルにある音場プロセッサとして、AV アンプを使いますので、AVアンプをお持ちの方限定となりますことをご了承ください。

 今回ご紹介するのは、1988年ごろに話題になった手法で、ステレオ2chシステムはそのままに、残響用スピーカーをサラウンドスピーカーのように配置、デジタルディレイマシンや音場プロセッサにより意図的に残響を加え、より広がった音場再生を行うというものでした。プロセッサで加える残響は、シアターシステムのサラウンドのように積極的に音像移動などを演出する手法とは異なり、コンサートホールの残響成分をわずかに加えることで、再生音場のサイズアップや、部屋そのものの反射の問題点を補うことができるなどの利点がありました。もちろん、メインの2chソースの音を改変するのではなく、初期反射時間(イニシャルタイム)、残響時間(ディレイタイム)、音量(残響のボリューム)を入念に調整し、違和感なくごく自然な音場を作り出すことが目的となります。

接続パターン

 さて、AVアンプをお使いの方の場合、以下の三種類の接続パターンが考えられます。

1.メインのオーディオシステムをシアターのフロントchに利用している

 2chオーディオのメインシステムをシアター用のフロントチャンネルとして利用している場合が、この接続パターンになります。

2.メインのオーディオシステムとシアターシステムを分離させている

 メインシステムを2ch再生専用とし、シアター用フロントchを含め2つのシステムを分けて利用しているケースです。この場合、フロントスピーカーは、メインとシアター用で2組設置した状態になります。

3.AVアンプで、2chオーディオもシアターも楽しんでいる

 シンプルな接続ですので、そのまま音場プロセッサの利用が可能になります。

 この接続パターンの中で、この記事をお読みいただいている方々の多くは、上記1.の接続法で運用されていると勝手な予想で進めさせていただきますが、機器の接続方法の違いがあるだけで、基本的な考え方は同じですので、接続による運用方法の違いについては後述させていただきます。

アンプの接続

 結線はメインシステムのプリアンプ(またはプリメインアンプ)のプリアウト端子から、AVアンプのアナログAUX端子に接続するだけです。普段シアターを利用する場合は、AVアンプのフロントチャンネルのプリアウト端子から、メインシステムに信号が流れるようになっていると思いますが、その逆ルートと考えてください。後は、メインシステムでCDやアナログディスクの再生を通常通り行い、AVアンプ側ではメインシステムからの信号をセレクトし、お好みの音場プロラムを選んで再生するだけです。


接続法1.の場合
プリアンプのプリアウト端子から、AVアンプのライン入力にっ接続する
接続補2.3.も運用法が異なるだけで、接続の基本は同じ

*この接続での注意点
 メインアンプの入力セレクトは直接接続されている、CDプレーヤー、アナログプレーヤーなどに設定してください。万が一、メインシステムでAVアンプをセレクトすると同時に、AVアンプでメインシステムをセレクトすると、信号ループの状態となり、場合によっては機器の故障につながりますので、くれぐれもご注意ください。

 音場プログラムについては、私が普段使っているヤマハのAVレシーバーを例に進めていきます。簡単にご紹介すると、ヤマハは歴代のAVアンプにDSP(Digital Sound field Processor)と呼ばれる音場プログラムを搭載してきました。この技術は当初単体の音場プロセッサDSP-1として発売されましたが、その後AVアンプなど、ホームシアターシステムに統合され、デジタル技術の進化にあわせて、高機能化を果たし現在に至ります。DSP-1が発売された時、私も早速導入し音場スピーカーの設置方法や、プログラムのパラメーター調整などいろいろと試しました。ディレイタイムの細かな調整など、部屋そのものの研究にも大変役立った記憶があります。

音楽用とシアター用の2つの音場プログラム

 このAVレシーバーに搭載されたDSPプログラムでは「Movie」と「Music」に分かれており、それそれにいくつかの音場データを持ったプログラムが搭載されています。「Movie」はその名の通りシアター用プログラムで、2ch入力の場合センターチャネル信号を作り出す処理が機能し、さらに様々な映画館の音場を選ぶことができます。一方「Music」では世界の著名なホールやライブスポットなどを実測した音場データーが収録され、ソースに合わせた音場プログラムを選ぶことができます。

 この「Music」プログラムのポイントは、サラウンドスピーカーからDSPプログラムによる残響音のみ再生され、2chのメイン信号は加工のないものとなっている点で、メインシステムの音は通常のCDやアナログレコード再生した状態と同じになるところにあります。したがって、接続法のところでAVアンプにプリ出力の信号は送り出しますが、メインシステムは通常通りの信号経路で、AVアンプによる影響を受ける懸念がありません。これはCDやアナログ再生をメインに取り組まれている方には、大事な部分と言えそうです。

音場プログラムの調整

 各音場プログラムには、調整メニューがありますので、ここで部屋の大きさ、残響レベルの調整などができますので、音楽ソースやお部屋の状況に合わせて、任意の設定が可能です。調整のコツはそれぞれの音楽ソースと親和性があること、ごく自然に広い音場を感じられるように調整して行くことが大事です。特に残響成分の音量は重要で、普通に鳴らしている状態で、ことさらプロセッサが働いていることを意識させない状態で、そのうえでプロセッサをオフにした時に、残響成分が加えられていたことに気づくといった調整が良いでしょう。これは特にクラシックなどのソースでは重要かもしれません。もちろん、積極的に音場成分を加えて、ライブハウスなどの雰囲気を味わうというのもありです。

 なお、1の接続法の場合、メインシステムのボリュームとAVアンプのボリュームは随時独立した調整が可能ですので、音楽ジャンルなどソースに合わせてメインとAVアンプのボリュームバランスを調整することが可能です。また、YAMAHAのAVレシーバーの場合、各プログラムのパラメーターの調整は、ディスプレイが必要になりますが、基本的な設定を済ませ、音楽演奏の段階になれば、スマートフォンアプリからDSPプログラムのセレクトやボリューム調整が可能ですので、ディスプレイは必要ありません。

接続法1.以外のシステム構成の場合

 最後に接続1.以外のパターンですが、まず3番の場合は、AVアンプの機能をそのまま活用するということになります。「Music」と表示されている音場プログラムでは、2chソースの場合、センタースピーカーは動作しません。接続1.と異なる点は、メインシステムが別系統ではないので、音場プログラムとの音量調整は、そのつど各パラメーターの画面を開く必要はありますが、上記の調整手法を参考にパラメータの設定をしていただければと思います。

 そして、接続法の2番では、メインスピーカーのほかに、シアター用のフロントL、Rスピーカーがありますので、メインシステムのスピーカーと同時に出音されます。したがって、今回の目的である、メインシステムを軸に、音場プログラムだけを加える場合は、AVアンプ側でシアターシステムのフロントチェンネルが鳴らないよう設定する必要があります。フロントチャンネルに外部パワーアンプを使用している場合は、パワーアンプの電源をオフにすることで、対応可能です。フロントチャンネルをAVアンプのパワー部を利用している場合は、AVアンプ側の設定でフロントチャンネルを外部パワーアンプを使う設定に切り替える、フロントチャンネルの音量をゼロとするなど一時的な設定の変更が必要になりますが、この設定方法はAVアンプのモデルごとに異なると思いますので、状況に合わせて取扱説明書などをご確認の上設定してください。

 今回は、少し奇抜なアイデアをご紹介しました。この手法は熱心なオーディオファンや雑誌にも真剣に取り上げられていた手法です。音場表現を目指したスピーカーや、石井式リスニングルームで、物理的な音場表現の解決法が登場し、手法自体が過去のものとなっているのかもしれませんが、お部屋に問題を感じておられる方など、チャンスがあればお試しいただければと思います。

2023/9/26 HOTEI(松浦正和)

   
 *本稿でご不明な点、ご質問などございましたら「こちら」までご連絡ください。

 スピーカー位置の検討についてのご質問では、お部屋の写真を添付いただけると、イメージがつかめます。その際は正面、後方、左右、天井方向の写真とごく簡単で結構ですので、お部屋の縦横高さの寸法をお送りいただけましたら助かります。

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