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ホームシアターのサウンドチューニング第8回 音場調整

 前回でチューニングの基本をすべて紹介しました。イコライジングは少し基本からはみ出しているところもあるかもしれませんし、調整としては難易度の高い部分もありますので、さらにいろいろなソースやお部屋の状況で調整を掘り下げていっていただければと思います。さて、今回はさらに基本を逸脱しますが、私が実際に行っている手法をご紹介します。

 まず予備知識としてAVアンプでの距離調整について説明します。

AVアンプの距離調整の原理

 AVアンプの距離調整は、基本的にすべてのスピーカーがリスニングポイントから同心円状の等距離に配置されるよう調整するためにあります。下図の例の場合、実際のスピーカーの位置をフロントLRを基準にすると、センタースピーカーおよびサラウンドスピーカーは同心円状から外れて、近くに設置されています。この位置関係をAVアンプで距離調整することで、AVアンプの演算機能で、実際の設置場所より少し遠く、フロントLRと見かけ上の距離が同じになるよう、発音時間のタイミングを遅らせるように調整します。これですべてのチャンネルで同じ音を出す場合、リスニングポイントに到達する場合の時間差はゼロになります。


スピーカーの距離調整
グレー部分が実際の部屋・茶色が実際のスピーカー位置
AVアンプの距離調整を行うことで、リスニングポジションでの時間差をゼロとし、
センターおよびサラウンドスピーカーの見かけ上の距離を同心円上に配置している

 *ちなみに音速を340m/秒で計算した場合、音が1m進むのに、約2.94ミリ秒(ミリ秒は1000分の1秒)かかります。おおよそ1mで3ミリ秒かかると覚えておくと良いでしょう。

 音速:約340m/S
 (大気の温度、気圧で音速は変わりますが、ここでは計算しやすいように)
 単位を合わせるために「mm」で表現します 340m=340000mm
 1ミリ秒での音速:340o/mS(340000mm÷1/1000S)
 音が1000mm(1m)進むのにかかる時間:2.94mS (1000mm÷340mm/mS 小数点二桁まで)

サラウンドチェンネルの距離再調整

 前回までの調整を行った状態でしたら、各スピーカーの距離調整は、すべて実測通りになっていると思います。この距離をまずは半分にしてみましょう。例えば、サラウンドスピーカーとリスニングポイントの距離が2mの場合、AVアンプの設定も2mになっているはずです。それをAVアンプ側で1mに設定します。そうするとサラウンドスピーカーからの音はわずかに遅れて出てきますので、結果的にわずかですが、音場が広くなったように感じます。前述の距離調整の原理に従うと、サラウンドが1m近いとAVアンプに入力しているので、実際には1m分、おおよそ3ミリ秒遅れて発音されます。

 原則に従えば、サラウンドチャンネルが遅れるのはおかしいように思いますが、サラウンドチャンネルのほとんどは環境音や残響などですので、これらは少し遅れることで音場が広くなったように感じます。また、後方から声が聞こえる、爆裂音や飛行機の移動などダイレクトな音もありますが、こちらはスクリーンに映らない音だけの表現ですので、リップシンクのようにシビアな時間調整は必要なく、音場空間の広がりを優先しても、ほとんど問題はありません。

 これらの調整はサラウンド、リアサラウンド、ハイトスピーカーで行い、フロントLR、センターチャンネルは実際の設置距離のまま動かしません。上記では試しにサラウンドスピーカーの距離を半分にしましたが、もちろん、これも部屋のサイズや状況によりパラメーターは変わってきますので、実際に音を聞きながら違和感のないように調整していきます。この際の音源はまず音楽ライブなどのソフトがわかり安いと思います。正面に音源があり、後方に向かってホールエコーが響いている様子がごく自然で違和感のないように調整します。距離パラメーターを近づけたり、遠ざけたり、いろいろとお試しいただき、ホールエコーがつながりよく、前方から後方に広がっていくように調整しましょう。音楽ソフトなどでの調整後は、映画作品など幅広いソースで微調整を行います。この際、イコライジングや音圧レベルも効果に影響を与えます。最後は総合的にAVアンプのすべてのパラメータを微調整していくつもりで、取り組んでいただければと思います。


サラウンドスピーカーの距離再調整
AVアンプのパラメータで実際の距離より近づけることで
時間遅れを引き出し、見かけ上の距離が赤い位置まで下がる
図はサラウンドスピーカー飲み表しているが、リアサラウンド、
ハイトスピーカーも距離を知事めることで、同様の結果が得られる


 この距離をずらすという手法のヒントは、ドルビーサラウンドの黎明期にさかのぼります。当時の映像作品のパッケージソフトはアナログで、2チャンネルでしたから、そこに位相差信号をミックスしエンコード。これをサラウンドプロセッサーででコードを行い、サラウンドチャンネルを作り出すという手法でした。そして、サラウンドチャンネルのセパレーションを上げるために、サラウンドプロセッサーには、音をわずかに遅らせるディレイ機能が装備されていました。このディレイタイムを部屋の環境に合わせ調整するのですが、つかっていくうちに調整によって音場の広さなどもコントロールできることが分かりました。こういった経験のおかげで、現在のマルチチャンネルでも同様の手法が使えることが分かり、積極的に使うようになり現在に至ります。このサラウンドの時間調整は特に美しく素直な反射を目指した石井式で最大限に活かされ、調整次第で音の広がりやつながりなど、豊かな音場環境が得られました。

アンプのパイロットランプが気になる

 今回の最後にちょっと小ネタを。直視型ディスプレイをお使いの場合は問題ないでしょうが、プロジェクターを使用して、前方にパワーアンプなどを配置されている場合、パイロットランプが気になりませんでしょうか? 多くのアンプはメーター照明やインフォメーションディスプレイを消灯することができますが、パイロットランプは動作中であることを示す役目がありますので、消えないのが普通です。しかし、プロジェクター使用中は部屋を真っ暗にするので、正面にアンプを置いた場合このパイロットランプが気になります。

 そこで、目隠しを考えました。素材はアクリル製サインホルダー(卓上メニュー立て)です。まず、光が透けないよう厚手のカラーペーパーを挟みます。そして、パイロットランプ側は、ランプの光がアクリルに反射して光が漏れないよう黒いフェルトを張りました。これでプロジェクター使用時にもパイロットランプが気になることがなくなりました。音楽を聴くときはサインホルダーをアンプのわきに置きなおせば、パイロットランプを含めメーターやインフォメーションディスプレイが隠れることはありません。アンプによってパイロットアンプの大きさや、位置が違うと思いますので、状況に合わせたサイズのサインホルダーを見つけていただければと思います。


サインホルダーでパイロットランプ隠す

 たまに、パイロットアンプの目隠しに、アンプの天板からフェルトなどの布をかけているケースがありますが、アンプの通気口やヒートシンクに布をかぶせるのは、冷却性能を考えるとお勧めできません。また、モデルによっては布などを天板におくだけでも音に変化が出てしまうものも存在します。したがって、アンプから独立して目隠しのできる、今回の方法がお勧めです。


サインホルダーの例
厚手のカラーペーパーを挟み光を遮る
アクリルむき出しだと光が反射するので、ランプ側に黒いフェルトを張っている
サインホルダーはこちらから入手できます

2023/6/15 HOTEI(松浦正和)

 
 *本稿でご不明な点、ご質問などございましたら「こちら」までご連絡ください。

 スピーカー位置の検討についてのご質問では、お部屋の写真を添付いただけると、イメージがつかめます。その際は正面、後方、左右、天井方向の写真とごく簡単で結構ですので、お部屋の縦横高さの寸法をお送りいただけましたら助かります。

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