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ホームシアターのサウンドチューニング

 石井式リスニングルームを作るにあたって、私が一番に考えたのはオーディオはもちろんのこと、ビジュアルも可能な限り良い条件で楽しむことのできる部屋ということでした。以前から石井式がホームシアターとしても、非常に親和性が高いことはいろいろなお部屋で体験していましたし、シアター運用をメインとした石井式も造らせていただきました。なにより、音響性能を最大限に引き出すことのできる部屋であり、Dolby ATOMSやDTS-Xなど最新のイマーシブサウンドの再現性も非常に良好な結果が得られます。今回からは複数回にわたって、ホームシアターのセッティングについて、お話していきたいと思います。オーディオセッティングと同じく、石井式リスニングルーム以外のお部屋も含めて進めていきたいとおもいます。

映画館の場合

 映画館と一般家庭の部屋では、まずサイズが大きく異なるのは当たり前ですが、広さの違いで音響設備も異なってきます。映画館はおおむね数百人の観客に対し、適切な音量をカバーするため、フロントメインに加えサラウンド側に数多くのスピーカーが設置されます。フロントメインはスクリーン裏の3chにLF(サブウーファー)を加えたフロントチャンネルに加え、左右壁、後方壁に複数のスピーカーを配置して、サラウンドチャンネルとしています。映画館によって異なりますが、この複数スピーカーはL、Rのサラウンド、およびサラウンドバックなどのチャンネルがあり、スピーカー位置によってそれぞれのチャンネルが振り分けられています。さらに近年のDolby Atmos、DTS-X、AURO-3D、IMAXなど、天井方向にもスピーカーは配置して、従来の水平方向に垂直方向のチャンネルを加えた3次元音響(イマーシブサウンド)に対応する音響設備を備えた映画館も少しずつ増えてきました。

 音響面では、THX、Dolby Cinema、IMAXなど一定の仕様に基づいた劇場音響が設定されています。中でもTHXは、ルーカスフィルム創設当時から音響技術を担当していたトム・ホルマン氏が中心となり設定したもので、これには一部、石井式の技術が用いられています。石井式の論文を読んだホルマン氏が、最初は音楽録音用のスタジオ設計に石井式を応用し、さらにポストプロダクションスタジオや劇場用THXの音響基準を検討する際、大いに参考にしたそうです。この話は、石井さんがカリフォルニアのスカイウォーカーサウンドに仕事で行かれた時に、ホルマン氏と会い直接聞いた話で、最初は石井さんを松下の技術者で、論文の作者と気が付いていなかったそうですが、石井式の発案者と知ったとたん、食事が豪華になったり、ホテルまでの送迎が豪華なリムジンに変わったなど、対応が一変したそうです。ちなみにTHXはジョージ・ルーカス氏の初期の作品タイトルから名づけられたそうですが、トム・ホルマン氏のイニシャル「T.H.」の意味も含まれていようです。

ホームシアターの場合

 さて、映画館の音声フォーマットは上記のようにいろいろと存在しますが、現在(2023年2月)ホームシアターで鑑賞可能なブルーレイ(4K UHD含む)や映画配信サービスでは、Dolby Digital 5.1ch、Dolby Atmosを採用するタイトルが圧倒的に多く、このシリーズでは、Dolby Digital、Dolby Atmosを中心に進めてさせていただきます。

 ホームシアター、家庭での映画鑑賞では、部屋のサイズが6畳サイズから12畳サイズ、それを超えるサイズのお部屋で楽しまれている方もいらっしゃると思います。映画館との違いは部屋のサイズと、視聴人数の違いでしょう。ホームシアターの場合は多くても4〜5人、普段は1人から2人で楽しむことが多いと思います。


 映画館は多くの客席に向かって、サラウンドのつながりを確保するため、複数のスピーカーが設置されますが、ホームシアターの場合は少ないスピーカーでも、調整次第で十分つながりのある音場を作り出すことが可能になります。最低フロント2ch、リアサラウンド2chの4chでも十分な音場感を得ることが可能ですが、複数人で鑑賞する機会が多い場合は、ステレオ鑑賞と同じくフロント2chの中央に位置するのはは1人だけで、中央以外の位置ではセリフの定位がずれるので、センターチャンネルを加えて5chとするのがよいでしょう。また、サラウンドスピーカーを小型のものにする(このパターンが多いと思いますが)場合は、低域の補強のため、サブウーファーを設置します。ということで、ホームシアターの場合まずは4.1ch、5.1chが基本的な構成と言えそうです。

 次に、この基本構成にサイドサラウンド、サラウンドバックを加える方法、また、Dolby Atmosなど垂直方向を加えたイマーシブサウンドに対応する場合は、天井側にオーバーヘッドスピーカーを1ペアあるいは2ペアを設置します。これは部屋のサイズを考慮しながら、サラウンドチャンネル(スピーカー)の数を検討されるとよいと思います。AVアンプの多くはサイドチャンネル、サラウンドバックにスピーカーがなくても、仮想チャンネルを構成してくれますので、絶対的にスピーカー数を欲張る必要はなく、音場のつながりをセッティングで違和感のない状態に調整することが可能です。同じく、オーバーヘッド1ペア2chでも大丈夫ですが、経験上、前後2ペア4chを設置できるとより良い音場空間が構築できそうです。

 リビングルームなど天井方向にスピーカーを配置するのが難しい場合は、フロントメインスピーカーなどの上に設置できる、イネーブルドスピーカーがあります。スピーカーそのものに仰角がついていて、天井に反射させてオーバーヘッドチャンネルの効果を得るといった方式です。また、テレビディスプレイの前に設置するサウンドバーなどの製品もあり、フロントチェンネルを使用して、ヴァーチャルサラウンドを実現しています。部屋の条件などでどうしてもサラウンドスピーカーが配置できない場合などに重宝するシステムです。

専用ルーム

 オーディオに限らず、ホームシアターでも専用の部屋が用意できるのが理想です。冒頭に述べた通り、それが石井式のように音響に優れ、遮音が施された部屋であればより高度な体験が可能となります。特にシステムは家庭用オーディオ機器を利用しますので、より繊細なチューニングが可能なことで、どうしても業務用大型システムを使う映画館に比べ、より質感を表現しやすい家庭用機器が使えますので、トータルの音響は確実にホームシアターのほうがより高度な音に仕上げることが可能となります。もちろん、部屋のサイズがコンパクトなので、絶対的な音量が異なっても、体感上の音量は映画館と同等のものとなります。どうしても違うのは、スクリーンの絶対的なサイズと、封切り作品をすぐに見られないことでしょう。私は基本音楽を楽しむためにオーディオを続けてきましたが、映画もどちらかというと好きなほうでしたから、現在はホームシアターも存分に活用し楽しんでいます。

最後に

 今回ホームシアター編の第1回ということで、書き始めましたが、意外に情報量が多く、どうまとめていくかしばらく思案していました。できるだけ手順にしたがって進めたいと思いますが、話の進行が前後したりということがあるかもしれません。その点大目に見てやってください。
 次回から少しずつ具体的な設定など、お話を進めていきたいと思います。

2023/3/1 HOTEI(松浦正和)

 
 *本稿でご不明な点、ご質問などございましたら「こちら」までご連絡ください。

 スピーカー位置の検討についてのご質問では、お部屋の写真を添付いただけると、イメージがつかめます。その際は正面、後方、左右、天井方向の写真とごく簡単で結構ですので、お部屋の縦横高さの寸法をお送りいただけましたら助かります。

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