オーディオ機器にとって電源が重要なことは多くの方が知るところで、電源ケーブルやコンセント、タップ等を吟味して使用されている方も多いでしょう。そこで、今回はオーディオ用電源についてお話を進めていきたいと思います。リスニングルームの施工を行う際に電気工事のご担当者とお話ししますが、基礎的な部分は当然ご存じなのですが、オーディオに特化した部分は一般的ではない部分があり、ご理解いただくのに時間をかけて説明する必要があります。また、オーディオを長く取り組まれた方でも意外にお気づきでない部分もあると思いますので、今更感があるかもしれませんが、少しお付き合いいただければと思います。
家庭用電源
一般的な住宅までの配電の流れをおさらいしておくと、発電所からいくつかの変電所を経て、各エリアに電気を送る配電変電所に届きます。ここで、6600Vに変換され、さらに小さなエリアごとに分けて送電しています。住宅の近くまで送られた電気は柱上トランスにより家庭用電圧の100V、200Vに変換され各家庭に供給されています。これが送電網の流れとなります。
柱上トランスから住宅へは、赤、黒、白の3本の電線でメーターに送られます。これを単相三線式と呼び、赤と黒を活線(以下L1とL2:LはLiveの意味)、白を中性線(以下N:Neutralの意味)と呼び、Nは、L1およびL2に対して0Vを示し、L1とN、L2とNの間にはそれぞれ100V、L1とL2の間には200Vの電位差があります。これを分電盤内で回路分けされ、ブレーカーを経て住宅内の各所に100Vおよび200Vを送り出します。
回路分けは住宅によりパターンはそれぞれですが、オーディオ機器に関わるのは、システムが置かれれた部屋のコンセント用回路になります。コンセント用回路は一つのブレーカー(1回路)から一部屋あるいは二部屋程度に供給されることが多く、1回路のブレーカーは20A、コンセント単体は15A品が使われることが一般的です。オーディオシステムの消費電力を考慮した場合、このコンセント回路で十分な容量と考えて問題ありません。しかし、オーディオは電源が大事ということで、コンセントをオーディオ用の上質なものに変更したり、オーディオ用タップを用いるなど、電源関連のグッズを利用される方も多いでしょう。もちろん、一部屋のコンセント回路を利用して、こういった電源強化を図るのは問題ありません。
ただし、電源強化のためにコンセント回路を分電盤から新たに増設したり、他の部屋からタップなどを引き出して使用する場合には注意しておく必要があります。先述の通り分電盤内で作り出す100Vには、L1とL2の二系統があり、それぞれの系統は200Vの電位差があります。この点を考慮しておかないとL1、L2のコンセントが混在した状態になります。もちろん冷蔵庫や洗濯機、掃除機などの場合はそれぞれが単独で動作する家電ですから、問題になることはありません。しかし、オーディオの場合はプレーヤー、アンプなど複数の機器が信号線で電気的につながった状態で使用するシステムです。コンセントを指す方向で極性管理まで行っているのに、電源強化したつもりが、逆に条件を悪くしている恐れが出てきます。また、国産機に限って言えば、単相三線式の電源相違いを意識して設計をしている可能性はありますが、海外機の場合はその限りではありません。最悪の場合、電源の不整合やアースループによる発振などを引き起こし、システムにダメージを与える可能性は否定できません。
このように電源強化でコンセント増設などを行う場合は、電源相にくれぐれもご注意ください。電源相の確認については分電盤から行うことができます。増設コンセント、他の部屋からの延長タップなどが、同じ相のブレーカー回路を経由しているかが確認できればOKです。なお、壁付けコンセントや電源増設などはその作業に応じて、電気工事士資格が必要です。例え持ち家などであっても無資格者がこれらの電気工事を行うことは違法となります。作業の実施にあたっては、電気工事店などに依頼をしましょう。もちろん、工事を行う際には、電源相が大事であることを工事担当者に伝え、ご自身も立ち合いの上必ずチェックするようにしましょう。
オーディオシステムの極性管理
家庭用電源のお話を進めてきましたが、続けてオーディオシステムの電源管理についてご紹介していきたいと思います。上記で解説した通り、コンセントはL(活線)とN(中世線)で100Vを供給しています。一般的な家電の電源プラグは2ブレード(以下2P)型で、どちらの方向に挿しても動作に問題ありません。しかし、オーディオシステムではこの挿す方向により音質に影響があり、挿入方向を管理する必要があります。まず、コンセントをよく見ると、2つの穴には長さの違いあり、短い方がL、長い方がNとなるよう配線されています。次に電源プラグ側ではプラグや電源ケーブルのN側にマーキングが施されている場合があり、こちらをコンセントの長い方の穴、つまりN側に挿します。アースリード線付きのプラグの場合は、アースリードが出ている側がNとなり、アース用ブレードある3P型のプラグの場合は、コンセントも3P接地型となりますので、挿し込む方向が自動的に決まりますので、特に意識する必要はありません。なお、2P型の極性マーキングはメーカーごとに表示方法が異なりますので、取説などでご確認ください。
このように極性が分かるプラグは良いのですが、ビンテージや機器によっては極性表示が示されていないものも存在します。その場合は極性を判定する作業が必要になります。この判定には、サーキットテスターが必要になります。弱電用デジタルテスターであればほとんどはレンジ調整がオートなので使いやすいと思います。
コンセントの極性
左:2P型、一般的な壁コンセントがこのタイプ
中:2P型アースターミナル付き、洗濯機、電子レンジに用いられる場合が多い
3P型:PC用、オーディオ用にこのタイプが多い。ホスピタルグレードもこのタイプ
電源プラグの極性
左:アースリード付きはアースリードの出ている側がN(中世線)
右:3P型 形状により挿し込み方向が確定している
手順は以下の要領で行います。
1. 判定したい機器の電源以外のケーブルをすべて外します
2. テスターのセレクターをAC(交流)にセットします
3. 機器の電源ケーブルをコンセントに挿します
4. RCAコネクターのリング(アース)側またはシャーシのねじに赤のテスター棒をあてます
5. 黒のテスター棒を手に握り(人体アース)数値を読み取ります
6. 次にコンセントプラグを逆に挿しなおします
7. もう一度4から5の手順を繰り返します。
8. 読み取った数値が低い方をプラグの挿し込み方向と判断します
9. プラグにドットシールやマーカーなどで極性表示をマーキングします
なお、機器側で電源カーブルが外れるタイプは、台形型インレットなら大丈夫ですが、メガネ型の場合には、機器側も極性表示のマーキングが必要です。
次にACアダプターの場合ですが、これに関しては今のところ判定方法はわかりません。挿し込み方向も試聴実験を行いましたが、私の所有する機器では違いはありませんでした。このタイプに関して極性管理が必要なのかも判定できない状況です。もし、何か情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、メールにてご教示いただけるとありがたいです。
コンセントの極性
家庭用のコンセントの穴の短い方がL、長い方がNで、これは家庭用電源のところでも解説しましたが、ごくまれにこれが正しく接続されていないケースがあります。また、一つの部屋のコンセントは1つの回路から供給されていると書きましたが、これもまれに同一の部屋で異なる回路から供給されているケースがあります。比較的建築年度の浅い建物ならこういったことはほとんどないと思いますが、少し古い建物の場合や、リフォームで電気配線を増設したりした場合は、念のためチェックをした方が良いかもしれません。
コンセントの極性が正しく配線されているかの確認には、検電ドライバーかテスターがあれば簡単に確認できます。検電ドライバーは、コンセント穴の短い方Lでランプが光り、長い方Nで消灯であれば配線はOKです。テスターを使う場合は、セレクターをACに合わせ、黒のテスター棒を握り、赤のテスター棒をコンセントに挿し込みます。この場合はLで数値が大きく、Nで数値が小さい場合が正解です。なお、コンセントにテスター棒を挿す際は決して金属部分を触らないようにご注意をお願いします。感電事故には十分ご注意ください。
サーキットテスターの例
デジタルテスターの多くはレンジ切り替えが自動になっている機種が多い
電源チェックのほかケーブルの導通、ショートサーキットの点検にも便利
入手はこちらから
検電テスター、ドライバーはこちら
次にコンセント回路の確認ですが、まずは分電盤で該当する部屋のブレーカーを探し、そのブレーカーのみをオフにします。これで、その部屋のコンセントには電気が流れない状態になります。そこで、検電ドライバーあるいはテスターで該当コンセントが通電しているかどうかをチェックします。もし、通電しているコンセントがあれば、そのコンセントは別回路になりますので、分電盤でブレーカーを一つずつオフにして、どの回路がそのコンセントに接続されているかを調べます。該当するブレーカーが同一相なら問題ありませんが、もし別の層の場合はオーディオ用として使用しない方が良いと判断できます。
オーディオ専用電源
オーディオに熱心に取り組まれている方の中には、オーディオ専用の電源を用意したいという要望もあると思います。しかし、ここまでのお話のようにより良い条件で、オーディオ用回路を敷設するには、やはり専門知識が必要になります。電源相の問題だけではなく配線経路なども検討することが必要で、これはケースバイケースで対処していくことが重要です。もちろん、電気配線の専門知識や工事は住宅電気設備業者でも可能ですが、残念ながらオーディオという特殊な事情には精通されていないのが普通です。石井式リスニングルームの設計に際しては、音響設計とともにオーディオ専用電源回路の設計、施工指導を同時に行うようにしています。電源設計の単独でもご相談させていただいておりまので、ご検討の方は下段のメールアドレスからご連絡いただければ幸いです。
また、電源関連でご存知の方も多いと思いますが、出水電機様とも協力しておりますので、専用部材や工事などをご希望の場合も、下記メールアドレスまでご連絡ください。
2023/1/26 HOTEI(松浦正和)
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