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オーディオシステムセッティング第11回:アナログプレーヤー応用編2

インサイドフォースキャンセラー(アンチスケーティング)

 アームの水平、針圧と調整して、最後にインサイドフォースキャンセラー(以下キャンセラー)の調整になります。インサイドフォースはレコード演奏中に針が前方に引っ張られることで、レコード内周方向にアームが引き寄せられる力のことを指します。キャンセラーはその力を打ち消す方向に力を加え、音溝に刻まれた信号を均等にトレースするように動作します。この原理についてはネット記事や書籍で多く説明されていますので、ここでは割愛させていただき、調整法についてお話していきたいと思います。

 基本編ではキャンセラーの値は針圧に沿った数値に合わせました。これはひとつの目安になりますが、実際は針先の形状などによりキャンセル量の最適値は微妙に異なります。これを正確に計測等で確かめるのは、残念ながら我々ユーザーサイドでは事実上不可能です。そこで、毎回で申し訳ありませんが、聴感で最適値を探る作業になります。

 一つ目として、レコード演奏をする際、最初に針が溝に落ちるときの音で判断する方法です。最外周のガイドグルーブ(導入溝)は針が落ちるとき「プツ」という音がしますが、この「プ」のあとの「ツ」をできるだけ小さくなるように調整します。キャンセラーの効きがつりあっていない場合は、針が落ちた時に内周あるいは外周に引っ張られて、針先が安定せずその揺り戻しで「ツ」が大きく聴こえる場合があります。キャンセラーの値を針圧を基準にして、そこから強め、弱めと何度か試してみて「プツ」が「プッ」になる方向を探っていきます。「プ」とか「ツ」とか、文字で説明するとなんとなく滑稽な表現になりますが、いろいろとお試しいただき、感覚でつかんでいただければと思います。

 二つ目は、音場感の確認です。キャンセラーが最適な状態では、左右に広がる音場感が違和感なくほぼ均等に広がります。これも慣れが必要となりますが、スピーカーがきちんと調整され、CDなどデジタル音源等で綺麗に音場が表現されていれば、レコード演奏との音場バランスの違いで判定ができると思います。多少録音には左右されますが、調整がうまくいけば、ほとんどのレコードで安定した空間情報や音場表現を得られるようになります。

 ちなみに、私の環境では針圧1.82gに対して、キャンセラーの数値は1.5より少し強めの位置になっています。実際の針圧より低めの値になりましたが、これはカートリッジ、アームの組み合わせパターンにより結果は異なりますので、皆様の環境でいろいろと試していただければと思います。なお、多くのトーンアームでキャンセラーはダイヤル式の連続可変タイプですが、SMEなどのおもりを糸で釣り下げる方式や一部のモデルでは、ステップごとにしか設定できないモデルも存在します。この場合は最も良い位置の近似値に設定するなどお試しいただけると良いと思います。


インサイドフォースキャンセラーの例
私の環境では1.5より少し上の値がベスト
ちなみに針圧ダイヤルは1.77gあたりを示しているが、針圧計の値は1..82g

アナログプレーヤー調整のまとめ

 ここまでアナログプレーヤーの調整について、部分ごとに調整法をお伝えしてきましたが、最終的には全体のバランスがきちんととれているか、音楽が楽しく聴けるかなどがポイントになります。プレーヤーのラック上の位置、針圧、アームの高さ、インサイドフォースキャンセラー量など音質的に影響しあうパラメーターがいくつもあります。何度か調整をループしながら、好みの音色に寄せていく作業になります。また、CDなどのデジタル音源を聴く際とのバランスもあるでしょう。デジタル系とアナログで整合性を求めるか、逆にそれぞれの特徴をより際立たせる方向に調整していくかは、使い手の思いが大きく反映される部分です。ここまでの調整法をヒントに音楽を聴くことの楽しさ、面白さを存分に味わっていただければ幸いです。

アナログレコード関連グッズ

 プレーヤー調整の文中で針圧計やベアリングボールなど調整用のグッズをご紹介してきましたが、この他にも便利なものがありますので、いくつかご紹介させていただきます。

〇除電ブラシ

 すでに多くの方がお使いだと思いますが、レコード盤面のホコリ取りおよび除電効果を狙ったグッズです。レコードは塩化ビニール製で、気が付くと静電気を帯びて、ホコリを吸いよせてしまいます。演奏前に盤面を軽くなでることだけで、十分な効果を得られます。もちろん、定番のフェルト式クリーナーとの併用もお勧めです。

〇スタイラスクリーナー

 レコード盤面を綺麗にしていても、やはり針先にはホコリや汚れがついてしまいます。普段はスタイラスブラシでホコリを落としますが、何枚か演奏した後に、ブラシだけでは取りににくい汚れがついてしまう場合があります。この時には専用のスタイラスクリーナーを用います。私はリキッドタイプのものを使用していますが、この他にジェルタイプ、モーターでブラシを振動させるものなどいくつかの種類がありますので、使い勝手に合わせて選ぶとよいでしょう。
 なお、リキッドクリーナーやスタイラスブラシを使う場合は、カンチレバーの根元から針先に向かってごく軽く撫でるように掃除しましょう。リキッドクリーナーはすぐに蒸発しますので、ごく少量で優しくかつ手早く行うのがコツです。


左から、除電ブラシ、スタイラスブラシ2種、リキッドクリーナーの例
除電ブラシは静電気を逃がすため、ブラシの金属部分を持って使用する
除電ブラシとリキッドクリーナーはリンクから入手できます

〇ルーペ・拡大ミラー

 針先を確認するためのルーペは、ホコリや汚れを確認するためにあれば便利です。ユニバーサルタイプのアームなら、アームから外して針先を確認します。シェル固定タイプの場合は、お化粧用の拡大式コンパクトミラーが使えます。拡大率10倍程度の物がありますので、アームの下側に置いて、針先のクリーニング時に使用すると便利です。


拡大ミラーの使用例(写真左)
本来オーディオ用ではないが、カートリッジが簡単に外せないシェル固定型アームでの
針先クリーニングは目が良くないと少し見づらくなる。そこで、10倍に見える拡大ミラーを
カートリッジ下に置くことで、確認しながらのクリーニングがやりやすくなる
2枚ある鏡の片側が等倍、もう片方が10倍拡大タイプの製品 入手はこちら

〇LPレコード用インナースリーブ(CD用もあります)

 ジャケットにレコードを収納するときに使うインナースリーブです。国内製品のレコードには最初からついていますが、輸入盤では紙スリーブに入っているものがあり、また中古盤を購入したときに、インナースリーブが無かったり、あってもかなり傷んでいたりすることがあります。そんな時に使えるインナースリーブです。やはりレコードは大切に保管したいです。下の写真は帯電防止効果のある製品です。

 アナログだけでなく最近紙ジャケのCDも増えてきましたが、輸入盤CDの多くはディスクがそのままジャケットに入っていることが多いです。ディスクが取り出しにくく、指でつまむと盤面に指紋が付きそうで気になるところです。そんな時はCD用のインナースリーブを用いるとジャケットから取り出しやすくなりますし、指で直接触れることも少なくなります。こちらも帯電防止機能を持った製品です。


左:LP用インナースリーブ、右CD(12cmディスク)用インナースリーブ
LP、CDともに帯電防止機能を持ったもの
入手はこちら LP用CD用

2022/11/29 HOTEI(松浦正和

 
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 スピーカー位置の検討についてのご質問では、お部屋の写真を添付いただけると、イメージがつかめます。その際は正面、後方、左右、天井方向の写真とごく簡単で結構ですので、お部屋の縦横高さの寸法をお送りいただけましたら助かります。

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