オーディオシステムセッティング第10回:アナログプレーヤー応用編1 |
前回までお伝えした調整法は、取説や入門書などで紹介されている内容と変わりなく、まずは基本調整の手順をお知らせする内容でした。今回からはこの基本から一歩進めて、より良い音楽表現を目指したファインチューニングについてお知らせしていきたいと思います。なお、この内容はかつてステレオサウンド誌で活躍されていた故井上卓也先生の記事や調整法を参考に、今までいろいろと試した内容をもとに書き進めていきたいと思います。 アナログプレーヤーの調整からお読みの方もいらっしゃるかもしれませんが、ここから先は、このシリーズの最初にお知らせした、スピーカーのフォーカスチューニングやアンプ、デジタルプレーヤーの置き方など、再度ご確認ください。この先のプレーヤー調整で非常に微妙な差を感じ取りながら、より好ましい方向を探っていく作業となります。その違いを明確につかめるためにも、アンプ以降のシステムが十分に調整された状態にあることが重要です。もし、これらのチューニングがまだという方がいらっしゃいましたら、少し手順を戻していただき各機器の調整をご確認ください。 アナログプレーヤーのファインチューニング ここでは、針圧やアームの高さなど各セクションに分けてお話していきますが、それぞれのセクションは複雑に絡み合っています。1か所調整すると、別の箇所も見直して検証するという作業になり、総合的なバランスが大事です。手間と時間のかかる作業ですが、やれば必ず答えとなって返ってきますので、ぜひチャレンジしてください。 調整用のソースは最初はディスク1枚に絞って行います。ヴォーカル物の方が変化をつかみ取りやすいと思います。微妙な歌い方の表現、バッキングの楽器との対比、音像のでき方、音場の広がりなどチェック項目はいくつかありますが、それぞれが有機的に好ましい表現になるよう、調整を行っていきます。全体がある程度整ったところで、他のディスクも確認していただき、さらに微調整を進めます。 フォノイコライザー これは本来基礎編でご紹介する項目ですが、ファインチューニングを行う上でも関わってくる項目ですので、こちらでご紹介させていただきます。近年のリーズナブルなプレーヤーの場合、フォノイコライザー内臓の機種もあり、専用カートリッジと併せて、最適な組み合わせになっています。少し本格的なプレーヤーの場合は、プリメインアンプ、フォノイコライザー、昇圧トランスなどと組み合わせての再生を行います。この際カートリッジによって出力、インピーダンスが異なりますので、ご使用のカートリッジに合わせて組み合わせの検討が必要になることがあります。 プリメインアンプのフォノ入力がMM型のみに対応したモデルの場合、一般的なMC型はそのままでは使用できず、昇圧トランスやヘッドアンプな出力をマッチングさせる手段が必要になります。また、MM型は受け側の負荷インピーダンスが47kΩ指定のものが多く存在しますが、MC型の場合は負荷インピーダンスに多くのバリエーションがあり、できるだけ条件に沿ったタイプのものが理想です。特にオルトフォ社製の一部モデルなど、インピーダンスおよび出力が低いものがありますので、適合した昇圧トランスやフォノイコライザーを使用するようにしましょう。もちろん、フォノイコライザー、ヘッドアンプ、トランスも個別のシステムですから、それぞれに個性があります。さらにカートリッジにも個性と併せて、組み合わせは広範囲に及びます。まずは、カートリッジメーカーが推薦や、いわゆる定番の組み合わせから選ぶのも良いでしょう。
ラック棚板とプレーヤーの置き場所 このシリーズで第6回アンプの調整の中で棚板のどの位置にアンプを置くか、というイラストを掲載しましたが、プレーヤーも同じことが言えます。棚板のどこに置くかで音楽に変化が現れますので、いろいろと試す価値があります。場所によってリズムのキレが良いところ、しなやかに変化するところなど微妙な変化がありますので、良いところを探しまず。また場所による変化の加減を覚えておくと、以後の調整での変化に合わせて、置き場所を修正するということもできます。なお、棚板上でプレーヤーを動かすと、水平調整がずれる場合がありますが、以下の項目も併せてすべての調整が完了してから、最終段階で水平を取り直しても良いと思います。 また、前述のフォノイコライザー、昇圧トランス、ヘッドアンプなど独立した筐体ですから、ラックのどの位置に置くかもチューニングのポイントになります。 多くのプレーヤーは、脚部にサスペンション、インシュレーターとなっており、基本的にプレーヤーの重量や特性を考慮したうえで最適化されています。ラックの棚板との組み合わせにもよりますが、基本的には、本体付属の「脚」で調整を進めるのが良いと思います。 アームの高さ調整 基礎編では自作ゲージなどを用いてアームの高さを水平に調整しました。ただ、あくまで目視での調整ですから、これで正しい状態といえるかは微妙なポイントです。規格的な観点で見ると、IECではカンチレバーの角度(レコード盤面との)は23度と規定されているそうです。この規格に沿った仕様のカートリッジであれば、アームが水平で、基準針圧に調整されていれば、カンチレバーの角度は23度になり、スタイラスチップは正確なトラッキング角度となっているはずです。しかし、この23度を一般的なユーザーの環境で確認、検証することは至難の業で、事実上不可能といえるでしょう。 注:このIEC規格は推薦値であり、メーカーによっては性能向上を狙って独自の角度に設定したものや、カンチレバーレスのものが存在します そこで、我々がとれる手段は、聴感を使って行う調整です。ゲージを使ってほぼ水平としたアームの高さを、少し上あるいは下に動かして、聴感で良い場所を探っていきます。動かすにつれ帯域バランスの微妙な変化が感じられると思いますが、より高域が素直に伸び、自然なダイナミックレンジが得られる高さが見つかれば、おおむね良い状態といえるでしょう。明らかに歪みが感じられる場合は、動かし過ぎだと思われますので、歪が感じられない範囲で、最も自然なバランスの高さを探ります。アームの高さ調整については、Technicsの一部のプレーヤーはアームベースがスクリュー(ネジ)式で、リングを回すことで高さを変えられ、さらに目盛りがついているので、この作業で大変役立つ便利な機構です。私のシステムではアームはネジ固定ですので、ネジを緩めて調整します。この調整後、再度ゲージでアームの水平を確認しましますが、アームを動かしたはずなのに、目視では水平が崩れたようには見えませんでした。つまり、見た目では誤差範囲におさまっているのでしょう。しかし、聴感でその違いは感じとれ、より好ましい音楽表現に調整できますので、いろいろとお試しいただければと思います。 針圧 基本調整でカートリッジの針圧は標準内に合わせていると思います。ここでは、基準針圧外まで範囲を広げて良い箇所を探っていきます。ただ、針圧外といっても基準値の上限を超えない範囲で、下限側を広げて探ります。例えば、基準針圧が2.0〜2.2(g)と指定されている場合は、2.2g以下で良い値を探ります。下限は歪が増えたり、トレースに支障が出ない範囲で行います。 まずは基準針圧の上限から0.1gずつ下げていき、音楽の変化を聞きます。針圧が下がると一概には言えませんが、音楽のリズム表現が軽くなったり、ヴォーカルの歌い方が明るく感じる傾向に変化します。この表情を聞き取りながら、もっとも好ましい数値を探り、そこからさらに0.1gより細かい数値で追い込んでいきます。良いと思われる針圧が決まればその値を記録します。ここでの記録はアームの針圧目盛りでも良いのですが、より正確に記録するため針圧計を使用することをお勧めします。ひとつは自分の環境での正確な針圧を把握するためと、アームの針圧目盛りはおおむね正確ですが、機種によってはウェイトの回転と目盛り表示が実測とずれのある場合があり、また目盛り刻みが大きいので、メンテナンス等で動かしたときに、できるだ正確な数値を確認できる針圧計が重宝します。 下記は私が使用している針圧計ですが、リーズナブルな割には100分の1グラムまで測れるのが便利です。また、計測の精度ですが、付属する5gのウェイトで校正した後、1円玉(1枚の重量は1g)を5枚用意して、1枚ずつ乗せていくと、正確に1gから5gまで枚数に応じて正しく表示されましたので、まずまず正確な数値が得られると思います。もちろん、この制度には個体差があるかもしれません。
針圧調整後は、再度アームの高さの確認を行います。アームのカートリッジ側を「前」カウンターウェイト側を後とすると、針圧を軽い方向に調整すると、ごくわずかに前上がりになります。本当に微妙な部分ですが、トレースアングルに変化わかることがありますので、再度チェックを行います。特にラインコンタクト系の針先の場合は、ごくわずかなアングルの違いで、変化する場合も考えられますので、注意深く音楽を聴いてチェックを行いましょう。 次回に続きます 2022/11/22 HOTEI(松浦正和) |
|
*本稿でご不明な点、ご質問などございましたら「こちら」までご連絡ください。 スピーカー位置の検討についてのご質問では、お部屋の写真を添付いただけると、イメージがつかめます。その際は正面、後方、左右、天井方向の写真とごく簡単で結構ですので、お部屋の縦横高さの寸法をお送りいただけましたら助かります。 |