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オーディオシステムのセッティング第3回:フォーカスチューニング

  前回までの作業で、スピーカーの帯域バランスを整えられたと思います。通常はこの時点でスピーカーセッティングはほぼ完成にかなり近づいています。しかし、さらにもう一歩進めることで、音楽の表情により深い表現の可能性が広がります。私はこの作業を「フォーカスを合わせる」と表現していますが、カメラでいう被写体にぴたりと焦点を合わせるような感覚です。フォーカスを合わせることで、定位が明確になり、音場表現がより豊かに聴こえます。この変化は、一般的なお部屋でも確実に効果がありますし、石井式のお部屋ならさらに効果は高まります。ぜひ挑戦してみてください。

フォーカスチューニング

 この作業を行うとき私は基本的にヴォーカルを中心とした音源を用いています。そしてそのヴォーカルがオンマイクで、確実にセンター定位している音源を選びます。クラシックの場合残念ながらオフマイク収録が多いことやステージの関係で微妙にセンターからずれているケースもありますので、この作業を行うには判断が難しくなります。ジャズやポップスで比較的はっきりと収録されているものを選んで、さらにその中から1曲を選びます。作業は各チャンネルごとに行いますが、再生は通常のステレオ再生で行います。

 以上の準備ができれば、音源を再生しながら両スピーカーの中央で、ヴォーカルの口の大きさや音場の広がりをチェックします。ヴォーカルが曇っていたり、音場の広がりに簿妙に左右差がある場合があります。ヴォーカルの口(定位)が大き目で、音場の広がりが少ないと感じたチャンネルから作業を始めます。スピーカーの中高域ユニットから20cm〜30cm(スピーカーにより距離が異なります)くらいの距離に立ち、楽音、特にヴォーカルに注目して確認しながら、スピーカーを左右いずれかに移動させます。前回の作業で帯域バランスに問題のない状態までスピーカーの位置が決まっていれば、移動範囲は10mmから15o程度で中高域のバランスが良く、高域が高い方まですっきりともびている場所が見つかると思います。特に高域の伸びに注力すると良いと思います。非常に集中力を必要とする作業で、何度も位置調整を繰り返すことになると思いますが、あきらめず時間をかけて進めましょう。集中力が途切れたら、休憩をはさんで取り組んでください。

 片チャンネルでまずまずの場所が見つかったら、また中央に戻り音をチェックします。おそらくヴォーカルの表現が少し変化したと思います。口の大きさが少し小さくなり、定位が安定してきたように感じると思います。このように感じられれば、作業した片チャンネルでの方向性に間違いがなかったといえます。そして次にもう片方のチャンネルで、先ほどと同じ作業を行います。

 このように片側ずつ調整を詰めていき、センターでチェックするを繰り返します。両方のスピーカの前でヴォーカルの音色が同じになるように意識するのも良いと思います。フォーカスがあってくると、スピーカーキャビネットをこぶしで軽くたたくだけでも音に変化が現れるようになります。最終的に中央で聴いて、ヴォーカルに左右差がなく、口元が小さくなり、音場感が左右で綺麗に広がれば、チューニング成功です。

 ちなみに、フォーカスの収束範囲ですが、これはスピーカーシステムにもよりますが、一般的に高域がドームタイプおよびそれに類するタイプなら1o以内、一番難しいのはコンプレッションドライバータイプで、こちらはピンホールつまり針の先ほどの範囲でフォーカスが決まるというのが、今までの経験で分かっています。

 スピーカーチューニングがここまで進めば、あとは様々な音楽ソースをチェックしていただければと思います。お聴きになる音源の多くで整合性が取れれば良いのですが、もし問題がある場合は、再度スピーカーのチューニングを進めるか、今後ご紹介するプレーヤーやアンプのセッティングで対処できる場合もありますので、まだ少し先の掲載になりますが、つづけてお読みいただければと思います。

フォーカス合わせについて

 このシリーズの最初に書きましたように、スピーカーセッティングは部屋とスピーカーの位置関係で決まります。フォーカス合わせもその延長線上にあり、これには定在波が関係してきます。第1回の部屋のどこにスピーカーを置くかの項目でいくつかの低域伝送特性グラフを提示しましたが、伝送特性は定在波の影響によりグラフのように山あり谷ありの特性を示します。これは低域だけではなく高域も影響を受けています。

 オーディオに取り組んで来られた方なら、スピーカーを動かせば帯域バランスに変化があることはご存じの通りで、これと同じことが高域でも起こっています。第2回の記事で低域と中高域のバランスを整えた時は、十数cmと範囲が大きかったのは対応する周波数の波長が長いためですが、高域になると波長が短くなるので、移動範囲も小さくなります。合わせる範囲は伝送特性パターンのより良い場所となるので、波長以上にさらに細かい調整が必要になるのだと考えています。

 一時この作業を測定で定量化できないかを、石井さんと挑戦しましたが、スピーカー移動、計測、また移動、計測の繰り返しであること、高域での良い伝送パターンが複数存在することで、なかなか定量化する良い方法が見つかりませんでした。もちろん、計算でこれを実現する方法も模索しましたが、あらゆるスピーカー対してパターンを収束させる方法がはたしてあるのかどうかは考察の余地があり、現時点で良い手法は見つかっていません。

 フォーカス合わせの記事、書いてみると非常に難しいです。上記にある実際の調整法はすでに5〜6回書き直しています。私自身が「感覚」で調整していますので、この感覚を文章で表現sルのは大変難しい作業です。できるだけ「なんじゃこれ?」にならないよう注意しましたが、うまくお伝えできていれば幸いです。

 このフォーカス合わせに最初に気が付いたのは、もう30年以上前のことです。石井式の研究に出会う以前の話です。当時の私は現在も使用しているテクニクスSB-M1をどうにかして良い音で鳴らすことに躍起になっていました。スピーカーを動かすことで、バランス調整ができることは分かっていたので、何とか良い場所をとしょっちゅう動かしてはやり直しの繰り返しで、長い間悩みつづけていました。ある時、たまたま非常に定位が良く、音場感の広がった気持ち良く再生できるポイントに出会いました。SB-M1でこういう音が出るんだとうれしくなったのを覚えています。ただ、気持ちはよいものの、低域にはまだ不満の残る状況だったでの、当然さらに動かし続けましたが、あの感じの良かった中高域はどこかに行ってしまいました。

 あれは一体何だったのか?、もう一度あの音を出せないかと模索しましたが、現在のフォーカス合わせの考えのなかった時期でしたので、元に戻せないままがしばらく続きました。それでもあきらめずにつづけていた時、ある時、スピーカの前で少しの動きで中高域に元気が出たり曇ったりという現象を発見し、そこに何かのヒントがあるように感じました。動かす量はほんの数ミリ、でも確実に変化を感じます。そうこうするうちに聴こえ方のパターンに気が付きました。非常に感覚的なことなのでどう表現していいのか判りませんが、独特の感じがあって、そこに範囲を絞っていけば、あの時の気持ちよい中高域が得られることに気が付きました。これがフォーカスチューニングの原型となっています。
 ただ、この当時は一度フォーカスを外すと、元に戻すのに数時間かかるという有様でした。いや、場合によっては数日かかるときもあったと思います。

 ちょうどそのころ石井さんとの出会いがあり、部屋の研究をお手伝いさせていただけるようになりました。当時はまだ定在波の解析を中心に作業を進めていたところで、いろいろなかたのお部屋を計測させていただいていた時期になります。そこで計測とともに、スピーカーの最適位置を探るわけですが、作業の仕上げとしてフォーカスチューニングをするようになりました。このころには1時間もあればフォーカスを合わせられるようになっていましたし、SB-M1以外の様々なスピーカー、異なる部屋でのチューニングができるようになっていました。この経験のおかげで今では15分くらいで調整できるようになりましたが、経験を積むきっかけをいただいた石井さんには感謝しかなく、「あんたの特技だから」と褒めていただけたのはうれしかったです。

最後に

 ここまでのように、現時点でフォーカスチューニングが聴感による手法しかなく、定量化できていませんが、非常に繊細で慎重な調整を行うことで、確実に再現可能な方法です。この記事を参考に皆様に挑戦していただけると、大変うれしく思います。

 今回はスピーカー調整の最終段階でのフォーカス合わせについてまとめてみましたが、この手法を用いることで、派生テクニックもあります。次回は補足もかねてそれらについてご紹介したいと思います。

2022/9/10 HOTEI(松浦正和)


*本稿でご不明な点、ご質問などございましたら「こちら」までご連絡ください。

 スピーカー位置の検討についてのご質問では、お部屋の写真を添付いただけると、イメージがつかめます。その際は正面、後方、左右、天井方向の写真とごく簡単で結構ですので、お部屋の縦横高さの寸法をお送りいただけましたら助かります。

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